224話 食後のコーヒー

「ずっずず……」


 少し遅めの晩飯が終わり、俺は椅子にもたれかけながら食後の熱いコーヒーをちびちびとすするように飲み込む。


 俺のすぐそばに立っているテントの中では、すでにヤクモが横になって寝込んでいるはず。


 アイツはハンバーガーを二つもおかわりし、さすがに腹がいっぱいになったらしく、少し前にふらふらしながらテントの中へと入っていった。


 ちなみにやはり食が細かったララルナはハンバーガーひとつで満腹のようで、今は焚き火を眺めながら俺が手渡した水で喉を潤している。いちおうコーヒーも勧めてみたけれど、匂いを嗅いだだけで「コレいらない」と言われた。


 そんなララルナを眺めながら、俺は細く長いため息を吐いた。


 はぁ……食器は片付けたし、全員にクリーンをかけた。それで後はもう寝るだけだというのに、ララルナの寝床がまだ決まっていないんだよなあ……。


 あのテントは二人と一匹くらいなら余裕で入れるのだが、さすがに箱入り娘と一緒に寝るってのは無理がある。


 俺としては接しているうちに子供っぽいララルナを異性としてみることはなくなってきているし、手を出すなんてもちろん考えていない。


 ララルナも俺のことは自分を保護してくれた親切なヒトくらいにしか考えていないだろう。たいへん健全な関係である。


 けれど問題はララルナの親だ。人間嫌いらしいエルフの親にララルナを返した際、無邪気なララルナから同衾したことがふわっと伝わるなんていうお約束は避けたい。絶対に面倒なことになるからな。全力で阻止しなければなるまい。


 そうなると、ここはやはりララルナにテントを譲り、俺が外で寝るのが最善策なんだろうと思う。


 ……ということなら、寝袋が必要になってくるよな。テントがあるとはいえ、寝袋がどんなものか少し気になっていたし、ちょうどいい機会かもしれない。


 よし、そうと決まればさっそく検索だ。


 寝袋といえばアウトドア。アウトドアと言えばアウトドアおじさんだ。まずはアウトドアおじさんのアカウントをチェックしてみるか――


 そうしてツクモガミを起動させようとしたところで、ララルナがむくっと立ち上がり、目をしょぼしょぼとさせながら俺のそばへと近寄ってきた。


「イズミ……」

「ん、なんだ?」


「アレ、出して?」


 ララルナが指で大きく四角を描きながら、もにょもにょと口を動かす。指し示す大きさで、すぐに何かを察することができた。


「……ああ、キャリーワゴンか。いいけど、どうすんだ?」


 別に出すのは問題ないけれど、なにか忘れ物でもあったのか? いやしかし相手の所有物があれば、ストレージには収納できないはず……。


 そんなことを考えながら俺がキャリーワゴンを取り出すと、すぐにララルナがサンダルを脱ぎ、キャリーワゴンへと乗り込んだ。そして中で横になると、


「おやすみ……くうくう」


 あっという間に寝息を立て始めた。もちろんキャリーワゴンってヤツは寝台として作られた物ではないんだが……まあ本人がいいならコレでいいか。


 俺としても余計な金を使わないで済んだし、それならこれでいいんだろう。寝袋はまた必要になりそうな時が訪れてから買っても遅くないしな。


 とはいえ、夜風を体に浴びるのはよくない。俺はツクモガミでララルナ用の毛布を検索し始めると、再び椅子にもたれかかり残りのコーヒーを飲み干したのだった。

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