222話 おもてなし

 行き先もわからないのに前を歩きたがるララルナを落ち着かせながらしばらく歩き、俺たちは昨日と同じ野営予定地に到着した。


 ここは風よけになりそうな大岩が近くにあるのがとても良い。ベストポジションなのだ。


「ヤクモー。焚き火の穴を掘り返してくれるか?」


「フニャン!」

『任せるのじゃ!』


 仕事を任されたヤクモが尻尾をぶんぶんと振りながら穴を掘り始めた。


 ちなみに昨夜は明かりをLEDランタンだけで済ませるつもりが、ヤクモが穴を掘りたそうにうずうずしていたので掘らせてやった。最近ヤクモが犬化してるような気がするんだけど、大丈夫なのかね? せめて狐であれ。


「イズミ、私もなにか……お手伝いする!」


 ヤクモを見て何かを感じたのか、拳をぐっと握って意気込みを語るララルナ。


「ああ、そう? それじゃあ天幕を立てるから手伝ってくれ」


 俺はテントをストレージから取り出す。ちなみにキャリーワゴンをストレージに収納した段階でララルナには収納魔法が使えると伝えている。


「わあ……お家が出てきた。すごい」


「ほれ、手伝うんだろ? 向こうの端を押さえててくれるか?」


「あっ、はーい」


 ぽかんと口を開けていたララルナが小走りにテントの端に向かうと、しゃがみ込んでテントの布地をがっしりと掴んだ。素直なやつである。



 そうしてテントの設営が終わり、ヤクモの掘った穴に焚き火の炎が揺らめく頃には、どっぷりと日が暮れていた。とっくに晩飯の時間だ。俺は焚き火に薪をくべながらララルナに尋ねる。


「ララルナ、待たせたな。腹減ってるよな?」


「ううん、あんまり」


 ララルナがふるふると首を振る。ほっそりとした体つきだが、どうやら見た目のとおり食は細いらしい。


「ああ、そうなのか。でもメシ食わないと明日、村に戻るときに元気が出ないからな。これから晩飯を作るからいっぱい食っときなよ」


「うん、ありがとうイズミ」


 こくりと頷くララルナ。メシは一緒に食べたほうが美味いからな。さて、今夜のメシは何にしようかね。


「ララルナ、肉とか魚とかは食べられるのか? ……ああ、魚は釣ってたくらいだから食べられるか」


「うん、どっちも食べられるよ」


 エルフのイメージって草食だが、そこはイメージから外れるようだ。まあ食べられるならそれでいい。


「そうか、それじゃあ何を作るかなあ」


『ワシ、カキゴーリがいい!』


 焚き火を前にぺたんと座り込んでいたヤクモから念話が飛んでくる。ほらきた、コイツの頭の中はもうかき氷でいっぱいなんだぜ。


『かき氷は晩飯で食べるものじゃないっての。まあそのうち作ってやるから、リクエストがあるなら普通のメシから選んでくれ』


『ふむ、そうなのか。それじゃあなんでもいいぞい。イズミが出してきた食べ物にまあハズレはないからのう』


 信用してくれるのはほんのりと嬉しいけれど、なんでもいいってのが一番困るんだからねっ!


 なんてことを思いつつ、さらにメニューを考える。うーん、やっぱりせっかくだからお客さんララルナが美味しいと思う食べ物にしたいよな。


「なあ、ララルナが好きな食べ物はなんだ?」


「私は……ファルラネとかフナッチャとかが好き」


「ファ……? それってどんな材料を使った料理なんだ?」


「知らない。お誕生日にママが作ってくれるの。すごく美味しいよ」


 うーん、見た目は二十歳前後くらいだと言うのに家事は一切しないタイプ。間違いなく箱入り娘だよなあ。


 それにずっと接しているうちにわかってきたけれど、どこか言動が幼い。


 移動中にヤクモからも聞いたが、エルフは人に比べると精神が成熟するのはやや遅いらしい。成人として認められるのが三十歳なんだとか。


 ということは見た目は大人でもまだまだ子供なのかもしれないよな。……よし、それならここは子供なら誰でも好きな食べ物をチョイスしてみることにしようか。

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