219話 アイスアロー

 俺はよっこらせっと立ち上がると、キャリーワゴンを引っ張りながらキャンプ設営予定地へと向かうことにした。まだこの辺は湿地帯から近くて危ないからな。


 そして移動ついでにエルフ娘のスキルをチェックする。


 んー……。身体スキルは何もなし。エルフなら弓術ってイメージがあったんだが、そういうものでもないらしい。まあこの子が得意じゃないだけかもしれないけど。そして次は精神スキルをチェック。


《精神スキル》

【ウィンドカッター】【アイスアロー】


 ウィンドカッターはすでに覚えているが……おっ、アイスアロー!? 俺はすぐさま名前をタップした。


《氷の矢を飛ばすスキルじゃ。じゃが、威力はあんまり強くはないぞい。お前の場合は普通の弓矢の方が強いんじゃないかのう? まあ覚えるなとは言わんがなー。スキルポイント13を使用します。よろしいですか? YES/NO》


 俺の首から離れたヤクモが地面をてくてく歩きながら、さほど興味がなさそうなメッセージを流す。やれやれ、どうやらヤクモにはこの魔法の素晴らしさがわからないらしい。


 俺はさっそくアイスアローを習得し、まずは試してみることにした。


「アイスアロー」


 俺が念じながら言葉を発すると、すぐに冷気をまとった一本の氷の矢が生成され、それが目の前にぷかりと浮かんだ。


 矢の太さは親指ほど。その先っちょは矢尻のようにはなっておらず、ただの棒状だ。これは俺がそのようにイメージしたからで、矢尻のような形も作れると思う。


 ぷかぷか浮かんでいるこの氷の矢……というか氷の棒は、俺が飛んでいけと念じれば獲物に向かってまっすぐ飛んでいくんだろうが……俺は氷の棒をむんずと掴んだ。うおっ、冷たっ!


『なあ、ヤクモ。これって食っても大丈夫だよな?』


『んー? アクアの水が飲めるのと同じように問題はないと思うが、そんなん食ってどうするんじゃ?』


『食えることが重要なんだよ』


 俺は氷の棒をバリッと噛み砕いて飲み込んだ。冷たい氷の欠片が、必死に走って乾いた俺の喉を冷やしながら通り抜けていく。よし、普通の氷と変わらないな。


 確信を得てにんまりと笑う俺を、ヤクモが首をかしげながら見上げている。コイツの察しの悪さはもう慣れたので、教えてやることにしよう。


『つまりな、これさえあれば氷が作り放題ってことだろ? それってめっちゃ便利じゃないか。まず、ビールが今までよりも冷やしやすくなるだろ? それに酒もロックで楽しめる。ジュースに入れたらすぐに冷たくなるし、ついでにかき氷も作れるようになるんだぞ?』


『ほー、そういうことか、なるほどのう。それで……そのカキゴーリとやらは何じゃ?』


『氷を砕いて、甘いシロップをかけた食べ物だよ』


『は? なんじゃそれ? 美味いんか?』


 どうやらかき氷を知らないらしく、うまくイメージできないらしい。まあ俺の説明も大雑把すぎるか。


『今度作ってやるよ。楽しみにしとけ』


 かき氷機とシロップくらいならツクモガミに売ってるだろうし、見せてやったほうが早そうだ。


『うむ、楽しみにしておくぞい! カキゴーリッ! カキゴーリッ! カッキゴーリッ!』


 カキゴーリのリズムに合わせて機嫌よさそうにヤクモが尻尾を振った。


 なんか早めに作ってやらないと、毎日しつこく聞かれそうな気がする……。早まったかと思わないでもない。


 さて、このアイスアローだけでもエルフ娘を助けた甲斐があったというもんだけど、もちろん特殊スキルの方もチェックする。


《特殊スキル》

【鈍感】【熟睡】


 ……【鈍感】【熟睡】か。この二つのスキルは見た覚えがある。レクタ村でいつもぐっすり寝ていた門番のおっさんが持っていたスキルだ。


 えっ? もしかしてこのエルフ娘、気を失っているというより、ただ単に寝ているだけってことなのか?


 さすがに昏睡が長いと思って心配していたんだが、熟睡してるだけなら……うん、まあ……よかったよな……。


 俺がエルフ娘の顔を見ながら呆れ混じりのため息を吐くと、それにいたたまれなくなったわけじゃないだろうが、エルフ娘の眉がぴくりと動いた。


 そしてようやく、その瞳が薄っすらと開き始めたのだった。

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