213話 湿地帯リターンズ
俺とヤクモはシグナ湿地帯にやって来た。チャリで来た。
フロートのお陰で湿地帯でもママチャリでスイスイ進んでいけるのだが、ここからはママチャリを降りて歩いていく。さすがにママチャリに乗りながら魔物狩りってのはナメすぎだと思うからな。
もちろんフロートは自分にかけたままにしておく。お陰で地面がぬかるんでいようが、ウェーダーを穿く必要がないのでラクチンだ。
ちなみに泥を嫌うヤクモは俺の首元でマフラーと化している。フロートは同時に二つ以上使えないし、自分以外の生体には使えない。
生き物を浮かせられるのなら、魔物に触ることさえできれば超高度まで上げて落とすだけで倒せるかなーと思ったんだが、そううまくはいかないらしい。
とはいえフロートが便利な魔法であることは間違いない。沼の水面を歩いて進めるので、これまでは見逃すしかなかった沼で泳ぐソードフロッグも拾い上げることが可能になった。昨日までと効率が段違いだ。
「うーん、これは思ったよりも早く目標は達成できそうだなあ」
俺は沼のど真ん中に立ち、腹を見せてプカプカ浮いているソードフロッグの死骸をストレージに回収しながら呟く。その独り言に首元のマフラーが反応した。
「目標はどのくらいを想定してるのじゃ?」
「とりあえず百匹だな。依頼の上限五十匹と、ツクモガミに売ったり食ったりする分で五十匹の合わせて百匹ってところだ」
「ほほう、お前にしては結構な数を目標したものじゃのう。目標を安易に達成できぬ数に設定したのは良いことじゃ! 高い水準の目標は、仕事のモチベーションや己の成長に良い影響を与えるからのう!」
ヤクモが感心したようにうんうんと頷く。首元がこそばゆいから止めてほしい。
「別にそんな大層な理由じゃないけどな。せっかくここまで来たんだし、がっつり稼いでおきたいだけで。もちろん面倒くさくなったら普通に切り上げるつもりだし。……おっ、発見」
沿岸でのんびりと日向ぼっこしているソードフロッグを見つけ、俺は弓を構えた。
◇◇◇
昼になり、岩場に腰掛けながら昼食を食べることになった。
沼地で仕方ないとはいえ、ヤクモをずっと首に巻いたままなのは結構暑い。
俺は首元をパタパタと扇いで涼しい空気を入れながら、昼食のカップラーメンをいただく。隣では人型に戻ったヤクモが油揚げの入ったカップうどんをずるずるとすすっている。
「そういえばさ、この湿地帯を奥の奥まで進むと、一体何があるんだ?」
無言で食ってるのもつまらないので、なんとなく疑問に思ったことをヤクモに尋ねてみた。
「ずるずるっ……! そこそこ大きな川が流れておる。その川を囲うようにここら一帯に湿地帯があるわけじゃな。そしてその対岸の湿地帯を越えると深い森が広がっておったはずじゃ。ずるずるずーっ!」
「ふーん、川向こうにも湿地帯があるのか。こっち側のソードフロッグの数が減ったら、向こうに渡るのもアリかねえ」
「ずるずるっ……! それは止めといたほうがよかろ」
「ん? なんで?」
「ワシの記憶がたしかなら、向こうの森にはエルフの集落があったはずじゃからなー」
「エルフってマジか。なんだか余計に行ってみたくなったんだけどさ、どうして止めといたほうがいいんだよ?」
この世界にはエルフやドワーフ、ハーフリングなんて種族がいるとは聞いてはいたが、未だに見たことはないもんな。一度くらいは見てみたい。
「やつらはなー、シグナ集落の連中がかわいく見えるくらいに排他的な連中じゃからなー。お前とばったり出会ったら、いきなり弓を引かれるなんてこともありうるぞい」
たしかにラノベやゲームの中のエルフって引きこもりで他種族嫌いなイメージあったけど……どうやらそれはこの世界でも変わらないらしい。
「それはイヤすぎる。絶対に行かないわ」
「うむ、それでよい。魔物ならツクモガミの力があればなんとでもなるじゃろうが、エルフは知恵もある種族ゆえ敵対するとなると、力だけではどうにもならんこともあるじゃろうからな。お前はかなり
「迂闊で悪かったな……。まあ、わかったよ」
一言多いのがムカつくが、言い返せるほど立ち回りに自信があるわけじゃないからな。いつも行き当たりばったりだ。
ただやっぱり腹が立つので、食後のデザートにパンケーキを出してやろうというサプライズはこっそり中止にしておいた。
◇◇◇
そして本日の狩りが終わった。俺は湿地帯にほどほど近い場所にテントを立て、そこで一晩明かすことにする。
これまでに狩ったソードフロッグは合計七十匹。明日もこの調子で狩れるのなら、明日中に目標を達成できるかもしれない。
そうなったら帰りはママチャリでのんびりと景色を楽しみなら、ライデルの町に戻ることにするか。行きはドーピングしながらかっ飛ばしたせいで、そんな余裕はなかったもんな――
そんなことを思いながら、俺はいつの間にか眠りについたのだった。
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