205話 ビールサーバー

 揚げ物でいっぱいになったテーブルを前にして――コーネリアは椅子に座ってフォークを持ちながら、ヤクモは俺の足元をうろうろしながら――俺の開始の合図を待っている。


 俺はヤクモの分の揚げ物(もちろん野菜もバランスよく盛り込んだ)を大皿に取り分けて地面に置いた。そして満を持して号令をかける。


「よし、それじゃあ食おうか!」


「おうっ!」

『いただくのじゃ!』


 俺の合図と同時に、二人は我先にと言わんばかりに大口を開け、から揚げにかぶりついた。


 そして目を見開きながら無言でモグモグと咀嚼そしゃくしたかと思うとゴクンと飲み込み、驚いたように声を上げた。


「うまっ! なんだいこりゃあ! なんか……うまいよ!」

『カリっとしてジュワーなのじゃ!』


 二人が語彙力に乏しいことを叫びながら、さらにから揚げを口の中にバクバクと放り込んでいく。おっと、見てばかりいないで俺も食べないとな。


 俺は我ながらうまくできた、こんがりきつね色のから揚げを箸で摘み、ひょいっと口の中に入れた。もぐもぐもぐ……。


 ――おおっ、カエル肉ってことで少々ビビっていたことは確かだが、一口噛み締めた感じは鶏肉とほとんど変わらない。


 だが肉の繊維が鶏肉よりもきめ細かく、舌触りがふわりとしていてとろけるようだ。


 そして噛めば噛むほど肉からは旨味たっぷりの肉汁がジュワッと溢れ出て、それがから揚げ粉の辛めの味付けとバッチリと合う。おお、これはめちゃ美味いぞ!


 このソードフロッグのから揚げは、これまで食べてきたから揚げの中で一番美味いと言っていいだろう。さすが異世界だよ、半端ないよ。


 ……しかしから揚げはこれで完成ではない。最後のピースがまだ足りていないのだ。


 から揚げを完成に導く最後の一欠片、それは――


 もちろんビールだ。異論は認めない。


 俺は一心不乱にから揚げを食べているコーネリアに尋ねる。


「コーネリアは酒が飲めるんだよな?」


「ハグハグッ……ゴクン。……ああ、飲めるとも。酒さえあればメシもいらないくらいには酒は好物だね。……って、そういやイズミとはあの世で飲むつもりだったってのに、まさかこうして生きて帰れることになるとはねえ、ハハッ」


 バジリスクと相対した時の口上を思い出したのか、コーネリアは照れたように鼻の下をこすった。


「それじゃあ生きて帰れたお祝いに、とっておきの酒を出してやるよ」


「へえ……。あんたのとっておきとなると、期待せずにはいられないねえ」


 口元を緩ませたコーネリアを横目に、俺はストレージに入っているキンキンに冷やした缶ビールを、ストレージ内で開封した。そうすると当然、中身のビールと空き缶に分離するわけだ。


 俺は木製のジョッキを手に持ち、ストレージから直接ジョッキの中にビールを流し込んでみることにした。


 ジョッキの真上の空間からビールがジョボジョボと流れ落ち、ジョッキの中をビールが満たしていく。


 ビール缶をコーネリアに見せると説明が面倒なのでやってみたことだが、これはこれでストレージがビールサーバーになったようで面白いな。


 二人分のビールを注いだ俺は、その一つをコーネリアに手渡す。コーネリアはジョッキの中身をじっと見つめて首を傾げた。


「これはエールかい? いや、エールとはまた香りが違うね……。それにこんなにもシュワシュワと泡立ってる飲み物なんて見たことないんだけど……。これは……酒……なんだよねえ?」


 片眉を上げながらビールを眺めるコーネリア。


「酒で間違いないよ。とにかくグビッといってくれ」


「そうかい。そういうことなら頂くとするよ!」


 一度決断してしまえば、後は速攻らしい。コーネリアは手に持ったジョッキを一度俺に掲げると、すぐさまジョッキに口をつけた。


 そしてジョッキをどんどん上に傾けていき、一気に中身を飲み干した。コーネリアがジョッキをドンとテーブルの上に置いて声を上げる。


「ぷはーっ! なんだいこりゃあ! エールと違ってすごく冷えてるしさ、それにこのクセになる苦味と喉越しの心地よさ! 最高じゃあないか!」


「そうだろそうだろ。おかわりはあるからな、じゃんじゃん飲んでくれよ」


 やっぱりこうして美味そうに食ったり飲んだりしてくれるのは見てて嬉しくなるね。特にヤクモは酒は飲まないからな。一緒に飲み合えるのは楽しい。


 俺はコーネリアのジョッキにおかわりを注いでやると、自分の分もグビリと一口飲んだ。うん、やっぱりから揚げにはビールだわ。


 から揚げとビールの相性の良さを再認識した後は、もう永久機関だ。から揚げを食ったらビールを飲みたくなるし、飲んだらから揚げを食いたくなる。


 そうして飲んで、食って、飲んで、食ってと繰り返し――酔っ払って楽しい気分のまま、から揚げパーティは俺が酔いつぶれるまで続いたのだった。

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