203話 肉好きの下剋上

 俺とコーネリア、ヤクモの二人と一匹は、昨日泊まった場所と同じ、集落の片隅に到着した。


 丸太の杭を雑に打ち込んだ柵に囲まれた集落の中でも、特に柵がボロくて誰も近づかないこの僻地が俺のテント設営場所だ。


 コーネリアの盛りに盛った俺の武勇伝が止まらなかったこともあり、そろそろ日が暮れようとしている時間帯。まずはテントを組み立てながら、今夜の食事のメニューを考えることにした。


 せっかくだからゲストが喜ぶものの方がいい。俺はペグを地面に打ち込みつつ、それを物珍しそうに眺めるコーネリアをチラっと見る。


 派手な赤い革鎧とそれがよく似合う長身、女性らしいしなやかさを保ちながらも引き締まった筋肉。


 ……どう見たって肉が好きそうなんだが、決めつけるのもよくないよな。まずは聞いてみることにしよう。


「なあ、コーネリアの好きな食べ物って何だ?」


「そうだな……やっぱり肉だね!」


 無邪気に笑って答えるコーネリア。偏見ではなかったようでなによりだ。


『ワシの一番はカップラーメン! じゃが、油揚げやウンドも捨てがたいのう!』


 聞いてもないのにヤクモも答えた。そしてコーネリアはさらに話を続ける。


「今日はソードフロッグをたくさん狩っただろ? あれを見るだけで腹が減ってくるくらいには肉が好きだよ」


「えっ、もしかしてソードフロッグって食用なのか?」


「なんだイズミ、知らないで狩ってたのか。ソードフロッグの肉は美味いんだよ。あんたの受けた依頼だって、依頼主は町でも有名な高級料理店じゃなかったかい?」


「あー……。そこまでは見てないかな」


 シグナ湿地帯に棲息している魔物であれば、他のことはどうだってよかったからなあ。こういうことを言うと、またエマに怒られそうだけど。


「そうかい。とにかくあそこはソードフロッグ料理が美味い店でね……って、これ、また催促してるみたいじゃないか。イズミ、気にしないでおくれよ? あたしはあんたが用意してくれたメシなら、なんだっていいんだからね!」


 コーネリアが照れ笑いをしながら頭をかいた。ヒューッ、嬉しいことを言ってくれるじゃない。そういうことを言われると、俺のもてなしの心に火がつくぜ。


 やっぱりコーネリアには肉だろう、これは決定した。


 だが、ストレージ内の食用肉の在庫は鍋でクロールバードをほとんど使い切ったので、ホーンラビットくらいしか用意できない状態だ。


 ホーンラビットに飽きたわけではないが、せっかく新しい食用肉があるんだもんな。ここはやはりソードフロッグにチャレンジしよう。


 カエルは前の世界の感覚ではゲテモノなイメージがあるけれど、この世界では普通に食われているみたいだ。


 さっさとマイナスイメージは払拭したほうが今後の食事が楽しめるし、なにより高級料理店で使われてるのならきっと美味いことだろう。


 テント設営が終わった俺は、さっそくソードフロッグの解体を始めることにした。コーネリアに聞いたところ、美味いのは手足の部分らしく、頭や胴体は普通は食用に使わないらしい。


 俺は作業台にドンと置いたソードフロッグを解体包丁でサクサクと解体する。


 手足をぶつ切りにした後は、軽く包丁で筋を入れてひっぱるだけで皮はぺろりと簡単に剥けてくれた。


 ちなみにグロが苦手なヤクモは焚き火用の穴を掘った後、さっさとテントに避難している。


「へえ……手慣れたもんだ。ほんと何でもできる男だね、あんたって」


 焚き火に火を灯し終えたコーネリアが、俺の隣で感心したように目を見張る。まあ【解体】スキルがあるからな、この辺の作業はお手の物だ。


 そうして下準備を済ませた後の作業台には、ソードフロッグ四匹分の肉が鎮座していた。


 前の世界の食用カエルといえば、足を骨付きチキンのように食べていたのをバラエティ番組で見たことがある。


 しかしソードフロッグは足が太いので、骨を切り分けて肉だけにすることができた。こうなってくると、見た目はもう普通にスーパーに売ってる鶏もも肉と変わらない。


 さて、後はどうやって料理するかだが、せっかくだから今までは面倒くさくてやらなかったを、この機会にいっちょやってみようかと思う。


 俺はツクモガミで網のついた鍋3250G、サラダ油950G、まぶすだけで簡単に仕上げることができる市販の粉270Gをポチッと購入。


 さっそく鍋に注いだ油をカセットコンロで熱しながら、俺は一口サイズに切ったソードフロッグ肉に市販の粉をまんべんなくまぶしていった。


 やがて熱せられた油からは、どこか懐かしさすら感じる油の匂いが漂い始める。そしてその油の中に菜箸を突っ込むと、菜箸からは勢いよく泡が吹き上がった。……よし、油の温度は十分だ。そろそろいいだろう。


 俺はソードフロッグ肉を静かに油の中に投入する。


 ジュワーっと心地よい音が鳴り、俺にはそれがまるで、これから始まる宴のファンファーレのように聞こえた。


 こうして、肉好きで嫌いな人はいないであろう超定番レシピ――から揚げの宴が始まるのだった。

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