202話 お話2
「ゴホッ! ゲホッゲホッッ!」
ああ、ばっちい。俺はゼリーで濡れた布団をタオルで拭いてやる。咳き込んで涙目のナッシュが口元を
「はあ……はぁ……。す、すまないな。……それで、ええと……バジリスクを五匹倒した……だって……?」
「ええ、まあ……。と言っても、そのうち四匹は運が良かったってのもありますけど」
俺はタオルをストレージにしまいながらナッシュに答えた。するとコーネリアが腰に手をあてて愉快そうに笑う。
「アハハッ、イズミ? バジリスク四匹リンクのどこが運が良かったんだよっ!? あたしはあんな窮地は初めてだったし、死ぬのを覚悟したもんさ!」
それでも昨日会ったばかりの俺を、命がけで逃がそうとしてくれたんだよな。あの時は俺も焦って雑に扱ってしまったけれど、コーネリアは本当にいいヤツだと思うよ。
「四匹リンクって……。はは、そこまでやられてしまうと、悔しいって気持ちすら沸かないってもんだな……」
どこか達観したように遠くを見つめるナッシュ。
「あたしは悔しいって言うより、なんかこう……身体の奥底から、きゅ~……ってカンジに痺れちまったけどね~」
そう言ってコーネリアがクネクネと身悶えながら、両腕で自分の身体を抱いた。
ちょっとエロいその姿に、ナッシュが気まずそうに視線をそらす。そして一度コホンと咳をすると、うっすらと好奇心を瞳に宿しながら俺に顔を向けた。
「……なあ、イズミ。お前がよければなんだが……バジリスクをどうやって倒したか、詳しく教えてくれないか?」
「ナッシュさんなら別にいいですよ。でも……特に言うこともないような?」
イーグルショットで一掃しただけだしなあ。あ、でも一匹目なら多少は話すこともあるかな? などと思っていると、コーネリアが身を乗り出しながら声を上げた。
「それじゃああたしが代わりに語ってやるよ! ……そうだねえ、イズミがソードフロッグをあっという間に倒したところから語ろうか!」
そこからなのかよ。それにしてもこのコーネリア、ノリノリである。
俺は語り部はコーネリアに任せて、適当に相槌を打つことにした。
そうして次々とコーネリアから語られる物語は、なんだか色々と盛られてるような気もしたが、気にしないことにしようと思った。
――しばらく時が過ぎ、コーネリアの話にひと段落がついた。ヤクモが『腹減った。ワシもあのゼリー食べたい』と催促をするのを適当に聞き流していると、ナッシュが大きく息を吐く。
「はあ……まったく信じられないような話だが、俺も一度お前の力は見ているもんなあ……。お前みたいなのがいるってのを知ると、俺がB級を目指すことなんてちっぽけなことなのかと思ったりもするんだが――」
「ナッシュさんそれは」
ナッシュは俺の顔に手のひらを向け言葉を遮ると、ニヤっと笑みを浮かべた。
「でも、俺の夢は変わらないからな。これからもB級を目指すし、バジリスクにもいずれリベンジするつもりだ。……コーネリアさんもそれでいいですか?」
問われたコーネリアは両手の拳をバシっと合わせて返事をする。
「ああ、もちろんだよ。ギニルのヤツは渋るかもしれないけど、そこは二人で説得しようかね」
その言葉にナッシュは深く頷くと、力を抜いてベッドに横になった。
「ふう……。さすがに疲れたかな。イズミ、本当に俺の命を救ってくれてありがとう。お陰でアレサを泣かせずに済んだよ」
「あー……。そういやアレサさん、冒険者ギルドですっごいナンパされてて大変そうでしたよ。ナッシュさんが帰ったら別の彼氏を作ってるかも」
「ははっ、アレサなら大丈夫さ」
俺の冗談にキラリと白い歯をこぼしながら答えるナッシュ。なんというかお熱いこって。……それじゃあそろそろお暇しようかね。ヤクモも腹が減ったとうるさいし。
「それじゃ俺、帰りますね」
俺は席を立つと、コーネリアにちょっとしたお誘いをする。
「コーネリア、俺のテントにくる? ごちそうするよ」
今日は大猟だったからな。自分へのご褒美に美味しい飯を食べたいし、どうせなら賑やかな方がいい。
「ああっ! 行く行く!」
満面の笑みを浮かべて俺の後ろに付いてくるコーネリア。
「はは……。あのコーネリアさんがねえ……」
なんとも言えない表情で呟くナッシュを残し、俺たちは部屋を後にした。
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