199話 リンク

【空間感知】によると、魔物がかなりの速度でこちらに向かって進行しているようだ。俺は魔物が来ている方向に顔を向けたが、まだ遠く、その姿は見えない。


「コーネリアさん、なんか魔物が来てるみたいです。気をつけてください」


「えっ? ……おっ、おうっ!」


 ぽかんと口を開けたコーネリアだったが、俺の顔つきで冗談を言ってるのじゃないとわかってくれたらしい。コーネリアは急いで両手剣を取り出し、険しい顔で俺と同じ方向を見つめた。


 ついでにヤクモも同じ方向を眺めながら念話を送ってきた。


『なーなーイズミ。この方角はさっき斧が飛んでいった方じゃないかの?』


『ああ、やっぱそうだよな……』


 バジリスクの内側はかなり柔らかかったらしく、斧は口内をぶち抜いた後、はるか遠くまで飛んでいった。向こうはちょうどその方角だ。だが、それが何か関係があるのか……? あるとすれば――


 などと思案しているヒマもなく、いよいよ俺の【遠目】がこちらに突進している魔物を捉えた。


 バジリスクだ。怒りに目を吊り上げたバジリスクが、藪や泥をかき分けながら、こちらに向かって爆走を続けている。


 そのバジリスクの頭には深い切り傷があり、顔の半分が血濡れているのが見えた。


 ……これってもしかして、俺が投げた斧がアイツの頭に当たったってことか? そして斧が飛んできた方角からアタリをつけて、報復するべくやってきたとか?


 さっき倒した個体は俺を泥沼にハメようとしたし、バジリスクの知能はそれなりに高い気もする。そう考えるとありえない話ではないだろう。


 確率的には信じられないような話だが、実際起こってしまったものだ、納得するしかない。


 ……よし、とりあえず原因は理解した。だがもう一つ疑問がある。


 傷を負って突き進むバジリスクの後ろに、さらに三匹のバジリスクが追走していることだ。


「なっ……またバジリスクだって!?」


 コーネリアの目からもバジリスクの姿が確認できたらしい。コーネリアは驚愕に目を見開きながら更に言葉を続ける。


「なんてこった……しかもリンクしているじゃないか!」


「リンク?」


 聞き慣れない言葉に俺が問いかけると、コーネリアは視線を逸らさないまま答えた。


「ああ、リンクだよ。魔物の中には共闘意識が高いヤツもいる。一匹が戦闘体勢に入っているのを見かけると、他の個体も共闘するべく一緒に付いてくるんだよ。それをリンクって言うのさ。……全部で四匹、さっきのあんたの戦いには恐れ入ったが、さすがにこれはキツそうだね……」


 コーネリアはそう言って顔をこわばらせたが、すぐに俺に向かって不敵に笑いかける。


「でも任せときな。イズミ、あんたには仲間を救ってもらった借りがある。……ここはあたしを捨て駒に使っておくれよ。少しは時間を稼いでみせるからさ、その隙にあんたはさっさと逃げておくれ」


 両手剣を構え、俺の前に立つコーネリア。だが俺はコーネリアの肩に手を置く。


「大丈夫ですから、ちょっと下がってて」


「なに言ってんだい。意地張ってる場合じゃないんだよ!?」


「いいから下がれってんだ。ほら、早く」


 あまり時間はない。俺はコーネリアの肩を押しのけ彼女の横に並んだ。


 ぞんざいな物言いに拳骨でも落ちてくるかと思ったが、コーネリアはどこか達観したような面持ちで俺に語りかけた。


「……そうかい、戦士として死にたいってわけだね。あんたのこと、どこかぼんやりした坊やだと思ってたけど、なかなかイイ男じゃないか。ククッ、惚れちまいそうだよ。……でも、そういうことなら二人で派手に暴れようかね。そして存分に暴れた後は、あの世で一緒に酒でも酌み交わそうじゃないか……!」


 コーネリアは俺の隣で両手剣を強く握ると、前を見据えて好戦的な笑みを浮かべた。


 ……なにやら盛り上がってるが、もう説明している余裕はない。バジリスクの方も俺たちを見つけ、激しい威嚇音をわめきながらすぐそこまで迫ってきていた。


 一列に真っ直ぐ並んでやってくる四匹のバジリスクは――



 ――うん、実に狙いやすい。


 俺は無言で弓を構え、カーボン矢をつがえる。


 俺の意志により手から流れ出た緑色の魔力は、つたのように矢に絡みついていく。


 そうして緑色に輝く一本の矢が完成した。


 俺は力いっぱい弓を引き、そして叫んだ。


「疾風迅雷ッ! イーーグルショットォォォオオオオオオーーッ!!!!」


 俺の手から放たれた膨大な魔力の奔流は、一直線にバジリスクの集団に向かって飛んでいく。


 周辺を緑に染め上げながら突き進む一本の矢は、やがて先頭のバジリスクの胴体にぶち当たった。


 その直後、目が眩むほどの閃光が辺り一面を埋め尽くし――


 光が収まり静まり返った湿地帯には、上半身を無くしたバジリスクが四体。連なったまま立ち尽くしていたのだった。

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