194話 奥地へ

 結局手渡したカ◯リーメイト三本をコーネリアはすべて腹に収めた。そして足取り軽く歩きながら、満足そうな笑みを浮かべる。


「いや~。美味かった! それに身体の調子もすごくいい! 本当にありがとなイズミ!」


 コーネリアが両腕を上げて力こぶを作りながら言った。


 このクッキーは美味いだけじゃなくて栄養もあって身体にも良いんだって話をしてからというもの、コーネリアはずっとこの調子だ。さすがにそうはならんやろ。


 ちなみにヤクモの方はカ◯リーメイトには他のフレーバーもあると知るや、他の味も食べてみたいとか言い出す始末。


 俺はコーネリアには苦笑を返しつつヤクモの要求は却下して、次なるソードフロッグの生息地へと向かった。



 ◇◇◇



 湿地帯の浅い部分はかなり狩り尽くしたので、俺たちは少しずつ奥地に向かって足を進める。奥に進むにつれてコーネリアの表情も次第に引き締まってきた。


「たしか……この辺りでもソードフロッグを見たんだよ」


 コーネリアが足を止めて呟く。その視線の先にはこれまで見たどの沼よりも大きく深そうな沼が広がっていた。


 さっそく目を凝らして様子を探ると、沼の沿岸部分で気持ちよさそうに泳いでいるソードフロッグを発見した。


 沼にいる魔物を倒しても、沼に入ってまで回収するのは面倒だしなにより危険だ。とりあえず沼から陸地に上がってこないか、しばらく様子を見てみることになった。


 俺たちが見守る中、ソードフロッグは陸地から沼の方に傾くように立っている木の近くまで泳いでいき、その木をじっと見上げる。


 その木の枝には、一羽の鳥が羽を休めて木の実をついばんでいた。どうやらソードフロッグはその鳥を見ているようだ。


 ソードフロッグは視線を鳥から外さないまま、ゆっくりと木の方へと近づく。夢中で木の実を食べている鳥はそれに気づいていない。


 突然、ソードフロッグは水面から飛び上がった。物音に反応した鳥が羽ばたこうとするがもう遅い。ソードフロッグはさらに舌を伸ばし、その舌で枝ごと鳥を両断した。


 羽を切り裂かれた鳥が沼の上にぽちゃりと落ちると、ソードフロッグはそれを悠々と一口で飲み込んだ。


 おお、あれが例の舌攻撃か……。ここまで弓矢でワンサイドゲームだったので、実際に見るのは初めてだ。たしかにソードフロッグって感じだわ。


 魔物の不思議にどこか感心しながら、さらにソードフロッグの様子を窺う。


 すると腹を満たして満足したのか、ソードフロッグは陸地に向かって泳ぎ始めた。よしよし、そのままこっちにこい。


 ――と、そこでソードフロッグに忍び寄る別の魔物の存在に、俺の【空間感知】が反応する。これは……なんだか大物の気配がするぞ……。


「コーネリアさん、ちょっと隠れましょう」


「えっ? おっ、おう」


 戸惑うコーネリアの背中を押して、俺は近くの大岩に身を潜めた。しゃがみ込んだ俺に覆いかぶさるようにして、コーネリアも物陰に隠れる。


 そのまま岩陰から顔だけ出して沼をじっと見つめていると、ソードフロッグの周囲の水面が突然大きく揺れた。


 ――バグンッ


 沼に突然口が開いたかと思うと、ソードフロッグはまるごとその口に飲み込まれた。まるでついさっきの再現のようだ。今度は食べた者が食べられているけど。


 そうして水中から姿を現したのは、青紫の禍々しい色をした巨大なトカゲ。


「コーネリアさん……アレが……?」


「ああ、アイツがバジリスクだよ……」


 俺の肩に置いていたコーネリアの手のひらに、ぎゅっと強い力が加わった。

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