193話 お手軽昼食

 昼になり、そろそろ腹ごしらえをしようということになった。


 湿地帯の中に腰をかけるのに丁度いい大きさの岩を見つけたので、そこに座りながら俺たちは昼食の準備を始める。


 とはいえ狩りの最中だったり、湿地帯特有の草と泥の混じったような匂いが漂うせいもあり、がっつりと食べる気にはなれないんだよな。かといって何も食べないわけにもいかないわけで。


 なにかサクっと食べられて、それなりに栄養もあるものってなかったっけかな……と少し考えると、ひとつの食品が頭に浮かんだ。――カ◯リーメイトである。


 俺は前の世界じゃ仕事はぐうたらと適当にこなしていたわけだが、それでもたまには昼食の時間を惜しむ日だってあった。そういう時にはコイツがとても役立ってくれたもんだ。


 さっそくツクモガミで検索すると、四本入りが六個セットで900Gで売られていたのでポチッと購入。


 ちなみに味はフルーツ味を選んだ。チーズ味も嫌いじゃないんだが、淀んだ空気の中でせめて少しはスッキリしたものを食べたかったからな。


 俺はツクモガミ上で封を開け、皿に乗せたカ◯リーメイトを岩の上でくつろぐヤクモに差し出した。うさんくさそうにヤクモが俺を見上げる。


『これが今日の昼食なのか? 見たところクッキーのようじゃが、こんなものが食事になるのかのうー?』


『なるんだよ、一応な』


 すぐに食わずにクンクンと匂いを嗅いでいるヤクモを放置して、俺は自分の分を口の中に放り込む。


 すぐに懐かしいやや苦味のある柑橘系の味が口の中に広がった。なんだかこれを食べていると、十秒でチャージするゼリーの方もセットで食べたくなってくるなあ……。


 そんなことを思いながら口を動かし、あっさりと一本目を食べ終えた。パサパサで喉が渇いたのでコップの水を飲んでいると、黒パンをかじっているコーネリアと目が合った。


「なんだか変わったクッキーを食べてるねえ。そんなのでハラの足しになるのかい?」


 少し心配するように眉を下げながら、ヤクモと似たようなことを言うコーネリア。


「ワリとイケるんですよ。試しに食べてみます?」


「んー、そうかい? それじゃ一個おくれよ」


 差し出された女性にしてはゴツい手にカ◯リーメイトを一本乗せてやる。コーネリアは「ありがとよ」と言って、軽く匂いを嗅いだ後、小さく口を開けて先端を少しだけかじった。


「…………!」


 目を見開いてコーネリアが息を呑む。そして彼女はまるでリスが木の実を食べるようにサクサクサクサクと小刻みに口を動かし、あっと言う間に一本食べ終えてしまった。


「な、なんだい、こりゃあ……! あたしこんな美味いクッキーを食べたことないよ!?」


 えっ、カ◯リーメイトですよ? と思いながら背後を見ると、ヤクモも夢中になってサクサクサクサクとカ◯リーメイトをむさぼっていた。


 いやまあ確かに美味しいといえば美味しいんだけどさ。俺からすると忙しく働いていた時の労働の味というイメージしかないからなあ……。


「な、なあ、その……。いやっ、いい! なんでもない」


 もじもじと言いにくそうに俺に話しかけたコーネリアは、ブンブン頭を振ると黒パンをかじって引きちぎり、もっちゃもっちゃと食べ始めた。


 ははーん、なるほどなるほど。俺はスッ……っと、三本のカ◯リーメイトをコーネリアに差し出した。


「たくさん持ってますから差し上げますよ。コーネリアさんには世話になってますし」


 コーネリアは信じられない物を見るような顔を俺に向ける。


「こ、こんな美味い物を三本も貰っていいのか……? イズミ~! あんたいいヤツだなあ!」


 感動したのか、がばっと俺に抱きつくコーネリア。今度は力加減を抑えられているのか痛くない。


 少々ゴツいが女性らしいところも十分にあるコーネリアにされるがままに抱きつかれ、カ◯リーメイトの代金としては十分な体験をさせてもらったなと思いながら、俺は昼食の時間を楽しく過ごしたのだった。

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