190話 シグナ湿地帯へ
翌日。テントを片付けた後に軽く体をほぐしていると、畑の向こうから馬に乗ったコーネリアがやってくるのが見えた。
しばらくして近くに来たコーネリアが馬上から、よっと手をあげる。
「おはようイズミ」
「おはようございます、コーネリアさん。ナッシュさんの様子はどんな感じでした?」
「ああ、昨日の夜、一度目を覚ましてね。けどまだ体力が戻ってないようで、すぐにまた寝ちまった。あんたが助けてくれたことを伝えたら、すごく感謝していたよ。なんだか複雑な顔もしてたけどね、ククッ」
コーネリアが顎に手をあてながら苦笑を漏らす。ナッシュのフォローに回ったのはこれで二度目だからなあ。彼がそういう気持ちになるのもわからんでもない。
「それでもうメシは食べたのかい?」
俺もヤクモもリンゴを食べた後だ。食べたと答えるとコーネリアが満足そうに頷いた。
「よし、それじゃあさっそくシグナ湿地帯に行こうかね」
コーネリアがポンと馬の尻を叩く。どうやら今日も馬に乗せていってくれるらしい。俺はヤクモを首に巻きつけるとコーネリアの手を握り、馬の背中に飛び乗った。
◇◇◇
コーネリアの引き締まった腰を掴みつつ、しばらく馬に揺られていると、やがて平原の景色が変化していった。
ところどころ地面が剥げてむき出しの土を見せていた平原には草がびっしりと生い茂り始め、ひょろっと枯れたように細くて長い木があちこちに見られるようになってきた。
遠くの方には沼といえばいいのか、水たまりとでもいえばいいのか、そういった物もちらほらと見え始めている。空気もどんどん湿気を帯びてきたように感じた。
「もうこの辺は湿地帯だね。集落の住人はここら辺りで魚を獲って生活をしているそうだよ。この辺りまでなら危険も少ないらしいんだけど、たまに欲をかいて奥地まで向かったバカがバジリスクの獲物になるんだってさ。って、あたしらも同じバカなんだけどね、ハハッ」
コーネリアが乾いた笑い声を上げると、手綱を引っ張り馬の速度を緩めた。
「さて、とりあえず馬はここにおいておくかね」
「え? コーネリアさんは帰らないんですか?」
湿地帯への案内だというから、ここでお別れだと思ってたんだが。
「ああ、集落に戻ってもナッシュはまだ眠っててヒマだしさ、あんたさえ良ければついていって構わないかい? もちろん獲物は全部あんたのものでいいからさ」
ソードフロッグがどの辺りにいるのかよくわからないし、それでなくともベテラン冒険者の同行は普通にありがたい。
「そういうことならぜひお願いします」
「おっ、それじゃよろしく頼むよ」
コーネリアはこちらに顔を向けて白い歯を見せた。そうして俺たちは馬から降り、コーネリアは近くの木に馬を結び始めた。
俺は首元のヤクモを引き離して地面に降ろしてやる。
『うへえ……。地面がぐちょぐちょしとるのじゃ……』
片足を上げて足の裏に付いた泥を気にしながら、ヤクモが念話を届ける。ヤクモの言うとおりこの辺りの地面はかなり水分を含んでおり、雨が降った後のように地面がぬかるんでいた。
これって俺が今履いているブーツで大丈夫なのかね? コーネリアも俺と変わらないようなブーツを履いているけど……。
俺もヤクモのように自分の足の裏を見ながらどうしたものかと考えていると、馬を繋ぎ終えたコーネリアが戻ってきた。
「ソードフロッグはこの辺よりもう少し奥だね。それじゃあ行こうか」
俺はコーネリアの先導に従い、湿地帯のさらに奥へと歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます