189話 集落の一日
俺は集落の隅に場所を借り、そこにテントを立てて泊まることにした。
コーネリアからは自分と一緒にナッシュが世話になっている民家に泊まろうとのお誘いもあったのだが、そこは丁重にお断りをした。
というのも元から質素な木造住宅だったこともあり、個室はあっても扉はなく、部屋の入り口にはナッシュたちが泊まるときに取り付けた垂れ幕があるだけで、プライバシーがほぼなかったのだ。
いろいろと隠し事の多い俺としては、心安らかにダラダラできないのはちょっと遠慮したかったからね。
テント泊を決めた後は、日が暮れるまで集落をうろうろと見学。
ほとんどの住居では干物が吊るされており、その辺の道を歩いているだけで、干物独特の生臭い匂いがどこからともなく漂ってくる。集落あげての名産なんだなと改めて感じた。
このような集落だとよそ者は排他的な感情をもって見られると思っていたのだけれど、意外と俺に気安く話しかけてくれる住民たちもいた。
どうやら彼らは外の刺激に飢えているらしく、向こうのお目当ては俺の冒険者としての冒険譚のようだった。
まあ俺は冒険者としてただのペーペーだとわかると、気まずそうな顔を浮かべながら去っていったけどな。C級冒険者として活躍してるナッシュたちと比べられても困るぜ。
ただ、ヤクモは子供たちに人気のようで、俺たちの散歩の周りには終始子供たちがかわいいねかわいいなとキャッキャ言いながら付いてまわった。
ヤクモもまんざらではない様子で、ふとした拍子に「ワシかわいい……」とか呟いてたよ。
◇◇◇
日が暮れてきた頃、俺は集落の隅に立てたテントに入り、その中でカップラーメンをすすりながら考え事をしていた。
「ずるずるずるっ……! で、イズミよ。結局何にするんじゃ?」
人型に戻ったヤクモがかわいくない音を立てながらカップラーメンをすすって尋ねているのは、俺のスキルのレベルアップのことだ。
技能の神はあと一回、無痛でレベルアップができると言っていた。せっかくの機会だ。なるべく良いものをレベルアップさせたい。
「……よし、決めたぞ」
カップラーメンを食べ終わった俺は、ツクモガミからスキル一覧を開き、そして――【洗濯】をレベルアップさせたというのはウソだ。
俺は【回避】をレベルアップさせた。スキルポイントの消費は380☆。スキルポイント的にはおしっこを漏らすレベルではなさそうだが、それでも痛そうなことには変わりない。
他にもいくつかレベルアップさせたい候補はあったのだが、やはり最終的には偉大な赤い人の「当たらなければどうということはない」という名言が効いた。
+1になると便宜上は達人級ということになる。これで俺は回避の達人というわけだ。明日の狩りではせいぜい役に立ってもらおう。
他の候補に関しては、またいずれ別の機会にでもレベルアップをさせてみようと思う。俺の予想が正しければ、またそのうち技能の神はやってくるだろう。
俺はテントで横になると、新たなエサ――もとい、マンガを購入するべく、ツクモガミを起動させたのだった。
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