186話 謎の声

 突然どこからか聞こえてきた謎の声。


 俺はその姿を探そうと辺りを見回してみたが、どこにもそれらしき人影はない。なぜか足元のヤクモがうずくまって頭を抱えているけれど、今の声はヤクモじゃなかったはずだ。


『この声は君と、物品の――ヤクモと名付けたんだよね、ヤクモの二人にしか聞こえてないよ』


 再び声が聞こえた。俺とヤクモにしか聞こえていない? ……というか、さっきから頭の中に直接声が響いていないか? なんだこれ!? どういうことだよ?


『うんうん。それを今から説明しようね』


 しかもこれ、俺の考えてたことが読まれてるっぽくない? 結構かわいい声してるじゃねーかって思ったのも読まれたってことか? それはちょっと恥ずかしいんだけど。


『そ、そう……ありがとね。さすがにそこまでは読めてなかったんだけど。……そして話を戻すけど、これは念話ってヤツさ。強く想えばそれが相手に通じる。ほら、君もやってごらん』


 念話……ねえ。とりあえずやってみるか。


『あー、てすてす。どうだ、聞こえるか? あんた、いったい誰なんだ?』


『おっ、できたみたいだね~。やっぱりボクたちが身体を作り変えただけあって、君にも素質が備わっていたようだ』


 えっ、俺の身体を作り変えたのって――


『ちょっ、ちょい待て~い!』


 ヤクモの声まで頭に響いてきた。


『技能の! お主、一体どういうつもりじゃ!?』


『やあ物品の。だってさあ、このままじゃイズミは大変なことになってしまいそうじゃないか。このボク、技能の神の見立てによれば、お漏らしくらいは確実にしちゃうと思うよ?』


 神々の共同作業で転移の際に俺の身体を作り変えたり、ツクモガミを創造したって話は聞いてはいたが、どうやらこの声の主はそのうちの一人、技能の神のようだ。そして俺、このままだとお漏らしは確実なのか……。


『そもそも、どうやってワシらにアクセスしたんじゃ? お主らは女神像を通さないことには、こちらとコンタクトは取れないはずじゃろ』


『ふふ、それはね~。今日までかかって、ようやくツクモガミのハッキングに成功したんだー。君は仕事がいちいち細かくて丁寧だから、かなーり苦労したけどね』


『……むっ、むむっ! 本当じゃ! いつの間にかこんなホールを開けよってからに! 待っとれ、いますぐ塞いじゃるからな!』


『ちょっ、まーまー、待ちなって! ね? ヤ・ク・モ? とりあえず話くらいは聞いておくれよ。君たちにとっても悪い話じゃないからさー』


『うぐっ、お主にその名前で呼ばれると、なんかムズムズするのじゃ』


『はは、いい名前もらったよね』


『うっさいわい! ……それで結局お主は何をしにきたんじゃ!』


 さっきから俺を無視して神様二人でどんどん話が進んでいく。どうやら二人は既知の間柄のようだ。あまり仲は良くはなさそうだけど。


『イズミがスキルのレベルアップに躊躇ちゅうちょしているようだったからね。この技能の神の神力と権能を用いて、スキルインストール時の衝撃を緩和してあげようって思ってやってきたのさ』


『えっ、そんなことできる……んですか?』


 それができるならありがたい。俺は思わず神様二人の会話に割り込んだ。


『そんなにかしこまらなくてもいーよ。君はボクらと同じプロジェクトを進行させている仕事仲間みたいなものだ。ヤクモに話しかけてるくらい気安くても構わないさ』


『はあ……』


『で、質問の答えだけど、もちろんできるさ。ツクモガミはボクら神々が作ったシステムだし、アップデートだって可能なのは君だって見てきただろう?』


 たしかにそうだ。しかし……。


『なあヤクモ。この技能の神サマって信用してもいいものなのか?』


『おいおーい。本人前にしてそんなこと聞いちゃう?』


 そりゃ聞くだろ。ヤクモみたいに役に立たない神サマを見てきたせいか、役に立つ神サマとか逆になんか怖いわ。


『うーん……。まあ非常に不真面目なヤツではあるが、仕事はまあ信用してやってもいいかのう……。じゃが、タダでは仕事をせんヤツじゃぞ?』


『ははっ、もちろんタダってわけにはいかないよね』


『ええ……。それって、なにかをよこせってこと?』


『うんうん、そういうことー』


 あっさりと言い放つ神サマ。よこすモノにもよるだろうが、それであの激痛を無くすことができるのなら、考えてみる価値はある。


『それじゃあ、その、何が欲しいんですか……?』


 悪魔じゃあるまいし、魂をよこせとかはないよな? 俺はおそるおそる技能の神に尋ねてみた。

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