175話 お薬ください
「それで……話は変わりますけどね、スタミナポーションを買いたいんですけど、ここに売ってますか?」
――スタミナポーション。飲むと体力が回復する薬で、俺の狩りに同行して疲れ果てたルーニーがグビグビと飲んでいた物だ。
ルーニーが言うには副作用的なものはなく、一般的に使われている薬だそうで、それがナッシュ捜索の旅に必要になってくると俺は思っている。
レシピは教えてもらっているのだが、結局のところ未だに作れていないし、金はあるんだから買ったほうが早い。
俺の問いかけにルーニーが目を輝かせながらむうっと唸った。
「むうっ! むううっ……! 君が私から薬を欲しがるだなんて、初めてなんじゃないか!? これは大変めでたいことだよ! よし、ちょっと待っていてくれたまえ、たしか……この辺りにあったはずだ!」
隣の部屋に向かったルーニーは、そこでガサゴソと音を立てると、しばらくして戻ってきた。
「今あるのはこれで全部だよ。一般的に知れ渡っているレシピだし、実は自分が使う分しか作っていないものでね!」
十本の水色の液体の入った瓶をケースごと持ってきた。
「えっ、そうなんですか? でもそれならルーニーさんの分が……」
「こんなのすぐに作れるからね! 君が気にすることはないとも!」
箱をずいっと俺の方へ差し出すルーニー。
「ありがとうございます。いくらですか?」
「なあに言ってるんだい! 今日は君が私の薬を欲しがった記念だ。今回は無料でいいよ! 遠慮なく持っていきたまえ! ほらっ!」
「え、いいんですか? それじゃ遠慮なく」
ありがたくいただくことにしよう。俺は箱から一本ずつスタミナポーションを取り出しては、それを鞄の中へとぽいぽいっと投げ入れていった。
そんな俺を見てルーニーはぷくっと頬をふくらませる。二十代半ばでそういう顔をするんじゃあない。
「少しくらいは遠慮する仕草をみせたっていいんだが、君は相変わらず私に対しては無遠慮だね……。アレサやナッシュに対してはもう少し節度を持って接してるように見えるんだがねえ……」
「まあ……日頃の行いじゃないですかね」
「むうっ……まあいいのだ。よく考えたら私も別にイヤじゃないっ。……ところでイズミ君、スタミナポーションは何に使うのかな? 差し支えなければ教えてはくれないだろうか?」
「ああ、これからシグナ湿地帯に行ったナッシュさんを迎えに行く予定でして。それできっと必要になるかなと」
「なるほどっ! ナッシュの帰りが遅いという話はアレサから聞いているのだよ。だが君が行くのならもう安心だな! よかったよかった、あーはっはっは!」
胸を張って高笑いするルーニー。なんでそんなに安心しちゃってんのと思わないでもないけれど、変に心配されるよりこっちの方がマシな気もする。
「それにだね、実はあのバジリスク討伐の依頼書も私がかなり前に依頼したのがずっと放置されていたものなんだよ。なんだか私のせいのような気がして、正直モヤモヤしていたのだ。ぜひともナッシュを助けてきてくれたまえ!」
あの依頼もルーニーのものなのか。俺も冒険者ギルドでチラッと高ランク推奨の魔物の依頼書を見たけど、どれも紙が古くてボロボロだったもんな。高ランク推奨の討伐依頼はいわゆる塩漬け依頼になりやすいんだろう。
それにルーニーが責任を感じる必要はないとは思うが、モヤモヤとする気持ちになるのはわからんでもない。
「まあなるべく頑張ります。それじゃ行ってきますね」
「うむっ! また戻ってきたら顔を出してくれたまえ。ああ、バジリスクはいくつでも買い取るので、やれそうならそっちもよろしくなのだ!」
なんとも気軽に言ってくれるルーニーに見送られながら、俺は薬師局を出た。
◇◇◇
薬師局を出た俺は、ライデルの町の西門に向かって歩く。町でやれることはもうないだろう。後はシグナ湿地帯に向かって移動するだけだ。
場所については幸いマルレーンが宿に来たときに聞いている。俺たちだけで行けるかどうかは不安なところがあるが、いつまでも人に頼りっぱなしなのもよくないからな。
『移動手段はどうするんじゃ? 歩きで行くには結構遠いみたいじゃぞ?』
教会の謎行動のほとぼりが冷めるのを待っていたのか、薬師局ではだんまりだったヤクモが俺にメッセージを送ってきた。
『もちろん乗り物を使うぞ』
マルレーンに聞いた話では、ファーロスの森に行くより二倍ほどの距離がありそうだったからな。さすがに徒歩はしんどい。
『ほほう、まあ【騎乗】も覚えたしな。馬を借りるのが良いじゃろのう』
『いんや、馬は借りない。世話が面倒だし、乗り捨てることもできないしな』
このライデルの町までは馬車でやってきたわけだが、ナッシュが馬にエサや水をやったり、身体をブラッシングしたりと大変そうなのを見させてもらっていた。俺も少しは手伝ったけど。
『それじゃー、どうするんじゃ?』
『門から出たら教えてやるよ』
『なんじゃいなんじゃい。もったいぶりおってからにー』
ヤクモがつまんなそうに口をつんと上に向けるが、なんの説明もなしに俺にマンガの二度読みをさせたコイツに言われたくはないんだよなあ。
そんなヤクモに呆れつつ、俺は西門を抜けて平原に足を踏み入れた。
人目がつかないところまで歩いた俺は、興味深そうに俺を見上げるヤクモに見守られながらツクモガミを起動させた。
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