173話 旅立つ準備
『なんか盛大に自爆しとったようじゃが……あの娘、大丈夫かの?』
冒険者ギルドから出たところで、ヤクモが冒険者ギルドの方を振り返りながらメッセージを送ってきた。
『まあ……若いんだし、勘違いくらいあるだろうさ』
『ほーん、そういうもんか?』
『そうそう。だからもう忘れておいてやろうぜ』
俺も学生時代は同じ女の子と何度か目が合っただけで、俺のことが好きだと思ったもんだしな。アレに比べれば全然マシだ。忘れてやるのが優しさってやつだろう。
『ふむ……。そんではイズミよ、これからどうするんじゃ?』
気分を切り替え、ヤクモがキリッとした顔で俺を見上げる。まあキリっとしても、愛嬌のほうが勝ってるので締まりはしないわけだが。
『……そうだな、まずは祝福亭にまたしばらく留守にするって伝えて……それから遠出の前だし、いちおう教会に行くか?』
『そうじゃったな。町から離れる前は連絡を入れろとうるさかったしのう。行ってくれると助かるのじゃ』
そういうことでまずは祝福亭に向かうことにした。移動中、せっかく手を握られたことだし、エマのスキルをチェックしてみる。
エマに備わっていたのは以下のスキルだ。
【アクア】【男苦手】【裁縫】【毒耐性】
さすがナッシュの妹。ナッシュと同じように【アクア】がある。さらにはこれからの討伐遠征にドンピシャなスキル【毒耐性】があった。
バジリスクの棲息地域に行くのにこれほど心強いスキルはない。兄貴を助けるために、ぜひとも役立たせてもらおう。
その他のスキル――【アクア】【裁縫】は取得済。そしてもちろん【男苦手】は習得しなかった。
名前の通り、男が苦手になるスキルらしい。エマの普段の俺や他の冒険者へのそっけない態度って、このスキルの影響なのかもしれないな。
そうしてスキルチェックが終わった頃、祝福亭に到着した。入り口でばったり出会ったマリナにしばらく留守にすると伝える。
マリナからは「戻ってきたばっかなのに、また遠征にいくん? イズミンって意外と働き者じゃね」なんて言われたが、俺だってこんな状況じゃなきゃ、もうちょいのんびりしたいもんだよ……。
働き者の俺は祝福亭を後にすると、次はまっすぐに教会へと向かった。
そしてガラガラに空いている礼拝堂で、ヤクモの連絡会が始まる。
とりあえず今回も待ってる間に読みかけのマンガを読もうとしたんだが――
『……な、なあイズミよ。今読んどるマンガって13巻じゃろ? 昨日はここで10巻が終わったところまで読んどらんかったか? そういうことで、今日は11巻から読んでみんか?』
『ん? いや、昨晩ちょっと眠れなくて少し続きを読んだしな』
娼館から帰ってきた後、ずっとモヤモヤしてたからな。気を紛らわすために眠くなるまでベッドの上でマンガを読んでいたのだ。
前の世界で何度も読み返している超有名な龍の玉を集めるマンガではあるけれど、さすがに昨日読んだ分を再び読み返すほど俺の記憶は衰えてはいない。
だがヤクモは俺の言葉が聞こえなかったようにポンと手を叩くと、さらなるメッセージを送ってきた。
『あー、あー! なんか天啓が降りてきたわ! 今日は11という数字がめっちゃ良い。これはきっとラッキーナンバーってヤツじゃ! きっとこの数字がお前の遠征にも幸運を授けてくれるぞい! ほれ、試しにそのマンガの11巻から読んでみるといい!』
『お、おう……』
もはやなにも言うまい。俺は昨晩読んだばかりの11巻をもう一度ぺらぺらとめくる作業を始めた。……うん、まあなんだ。深く考えないぞ、俺は。
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