170話 取ってない

 えっ? クララのクララが勃った!? はっ? はあーー!?


「ご、ごめん、コレってどういうこと?」


 俺はおそるおそる股間のクララを指差すと、クララちゃんは恥ずかしそうにもじもじと体をくねらせる。


「えっと、私まだ、なくて……。後たぶん半年ほどお仕事を続けていれば、取れるくらいのお金は貯まると思うんですけど――」


 そこでクララちゃんは何かに気づいたようにハッと口に手をあてた。


「あ、あの、もしかして付いてるの、お嫌でしたか……?」


「え、いや、付いてるのがイヤというか……。あれ? 胸もあるよね?」


 クララちゃんには小ぶりではあるが、しっかりと膨らんだ柔らかそうなおっぱいがついている。俺が思わず胸をじっと凝視すると、クララちゃんは自分の胸を愛おしそうに撫でながら答える。


「はい、これはこのお店に入るときに、お給料の前借りをしてやってもらいました。さすがに魔法整形なしに、このお店で働けませんから。最近はいい薬師さんがいるそうで、そちらから仕入れた素材でやってもらえれば、本物と変わらないような感触になって……」


 魔法整形? そういうのがこっちではあるのか……。あ、いや、豊胸手術はこの際どうでもよかった。問題は下のヤツだよ下の。


 俺は最大の問題についてストレートに尋ねることにした。


「ええっと、クララちゃんは男の子なの?」


「はい、もちろん男のですよ?」


「そ、そうなんだ……。それじゃあ、その、悪いんだけど、チェンジで……」


「……? でも、このお店の方、みんな男の娘ですけど……」


 こてんと小首を傾げてクララちゃんが答えた。


「マッ、マジで?」


「はい……。あの、もしかして……それを知らずにこのお店に来られたのですか?」


 そう言ってクララちゃんがすりすりと指を擦ってみせる。バジが何度かやってた仕草だ。もしかしてそれって、意味だったってことか?


「あ、ああ……。どうやら俺、なにも知らずに連れて来られたみたいなんだ……」


 俺は膝から崩れ落ちそうになるのに耐えながら、なんとか声に出す。


「そうですか……でも、大丈夫ですよ? 私、男の人の悦ばせ方、たくさん、知ってますから。女の子になんて、絶対に負けませんから……」


 色っぽく目を細めたクララちゃんは、俺にしなだれかかるように体を寄せると首筋にふうっと息を吹きかけ、内股をそっと撫でた。俺の背筋がぞわぞわとするのは悪寒なのか快感なのか、自分でもわからない。それがすごく怖い……!


 ただ一つだけわかっていることは、ここで体を委ねてしまえば、俺は戻ってこれなくなるかもしれないということだ。


 俺はクララちゃんの両肩を掴むと腕をぐっと突き出し、彼女? から距離を取る。


「俺、帰るよ。俺の都合のせいで気分悪くしたよな、本当にすまん」


「そうですか……。でも、知らないで来ちゃう方、たまにいるんです。ですからイズミさんは気にしないでいいですよ。気が向いたらいつでも来てくださいね?」


 困ったように眉を下げながら儚げにクララちゃんが笑った。ぐはっ! このまま押し倒したくなるような破壊力がある……!


 俺は効果があるのかはわからんが【粘り腰】【危険感知】の発動を意識しながら、その衝動にぐっと堪える。


 だがクララちゃんの色香に正気を失いかけた俺は、金縛りにあったように身体が動かない。気を紛らわすためになんとか動く指を使い、クララちゃんのスキルをチェックしてみた。


【口説き上手】【床上手】【淫乱】【敏感】【男殺し】【愛嬌】【被虐体質】【騎乗】


 ――ひえっ、コイツはヤバいぜ。この店で間違いなくエース級の才能の持ち主じゃん。


 とりあえず【騎乗】はまともなスキルっぽいか? せっかくなのでポチってみる。


《なんにでも騎乗できるスキルじゃ。とはいえ、レベルアップさせねば馬くらいにしか乗れんじゃろうがな。というか、なかなか変わった人間に会っとるようじゃが、なにしとるんじゃーイズミ? スキルポイント35を使用します。よろしいですか? YES/NO》


 馬以外にも乗れそうなものもある気がする。まあそれはさておきYESだ。


 すぐさまやってきた身体を貫く衝撃が、固まっていた俺の身体を動かせるようにしてくれた。


 俺は急いで服を着直すと、寂しそうな顔で俺を見送るクララちゃんにもう一度頭を下げ、小部屋から出ていった。お金は迷惑料だ、そのまま置いてきた。


 階段を降りて一階のフロアに戻る。お客がついてなくてヒマそうにしている店員のみなさんが俺に声をかけてきた。


「えーもう帰るの? 早くね(笑)? 若いならまだいけるっしょ。次はあーしとどう?」


 あのいかにも遊んでるっぽいギャルも――


「もう、そんなこと言っちゃだめよ~? 次はお姉ちゃんといっしょに気持ちよくなりましょ?」


 あのバブみ溢れるお姉さんも――


「やだっ、お兄ちゃんはあたしと遊ぶの! いいよね、お兄ちゃん?」


 このロリっ子も――


 全員、男の娘なのか……。


「あ、もう結構です……」


「またのお越しをお待ちしてまーす♡♡♡」


 俺はふらふらになりながら店の入り口をくぐり抜け、みなさんのお見送りの言葉を背に受けながら、外に出たのだった。



 ◇◇◇



 しばらく店の外で放心状態になっていると、早くも一戦を終えてきたらしいバジとばったり出くわした。


 さっそくバジにさっきまでのいきさつを伝えたところ、バジが言うには本当の綺麗どころとなるとたちまち噂になるので、さっさと金持ちに召し抱えられてしまうらしい。なので娼館の女の子のレベルというのはイマイチなことが多いんだとか。


 その点、あの店なら(稀にその手の趣味の金持ちが身請けをすることもあるらしいが)値段もそこそこで、男の悦ぶツボもよくわかってる、かわいい子揃い。男の娘であることを除けば最高なんだとか。


 そこが一番重要だろうと思うのだが、バジたちは気にしないらしい。すごい割り切り方だよ、尊敬するよ。マネしたいとは思わんけど。


 ちなみにこの後、バジにお願いして一般的な店を一緒にハシゴした。そこはまあそこそこの女性を揃えた娼館で、サービスは少し悪くて、そのくせ値段は結構高めで……。


 バジたちの気持ちもわからんでもないと少し思った。ほんの少しだけどな!

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