168話 歓楽地

 ライデルの町の歓楽地らしい場所に俺とバジたち三人組がやってきた。


 どこを見てもべらべらしゃべる客引きや、ケバい格好でタバコをふかしながら突っ立っている女、店を品定めするニヤけた男だらけだ。


 先頭のバジはそんな様子には目もくれず、勝手知ったるとばかりに目的の店へと向かって歩いていく。そこはさほど大きくはないがしっかりした石造りの二階建ての建物だった。


 中に入ると、店内では女の子がテーブルに着き、男性客を相手に酒を飲んだり会話をしたりと楽しんでいる様子がそこらかしこで見られた。店の中程にあるカウンターに立っていた、ひときわ派手な衣装を身にまとった美女が声を上げる。


「あら皆さん、お久しぶりね!」


 その声に店内の女の子たちは一斉に顔をこちらに向けキャーっと賑わい始める。さすがC級冒険者、この店でもバジたちは有名のようだ。


「すまねえな、最近いろいろ立て込んでてよ~」


 申し訳なさそうにバジが頭をかくと、美女はカウンターから出てバジの腕を抱きながらべったりと顔を寄せた。


「もう、許さないんだから。許してほしかったら今日はたっぷり遊んでいってよね?」


「ああ、もちろんだともワハハ!」


 バジがデレデレと顔を緩ませながら答える。美女にくっつかれてご満悦のようだ。というかうらやましい。立ちふるまいから察するに、どうやら美女はこの店の店主のようだ。


 美女はバジの後ろにいた俺たちに顔を向け、興味深そうに俺に視線を合わせた。


「バジさん、そっちの子は見かけたことないわね。もしかして……『鋼の意志』の新人さんなのかしら?」


「いや、そういうわけじゃねえんだが、とにかく見込みのあるやつでな! それに昔の俺を見ているようでなんだかほっとけねえんだ。それで今日はコイツと一緒に楽しもうかと思ってよ。……そういや俺がお前と初めて出会ったのも、コイツくらいの歳だったよなあ」


「あら、懐かしいわね……。あの頃は私もまだ何も知らない娘っ子で、バジさんにもどれだけ迷惑をかけたことか……」


「なあに、今となってはいい思い出だ。それよりほら、連中も待ちきれねえって顔してやがる。早く部屋に案内してくれよ」


「あら、いけない。それじゃあお部屋に案内するわ。ケインさんとタンケルさんはいつもの子がいいのよね?」


「ああ」「頼む」


「わかったわ。そっちの新人さんは私の方でいい子を見繕ってあげちゃうけど、お気に召さなければいつでも言ってちょうだいね~」


 美女は俺たちを個室に案内すると、ひらひらと手を振って出ていった。あとどうでもいいけど、長剣男と短剣男の名前を初めて知ったよ。


 部屋でソファーに座りながら女の子たちが来るのを待つ。


 この店のシステムはバジたちから聞いている。まずは部屋で女の子たちと一緒に飲んで、そして女の子が気に入ったら一緒に別の個室に行くのだ。


 そこでさらなるを深めることになる。その時に女の子に金を払う。ちなみに入店時にも入場料は取られるのだけど、それはバジたちがおごってくれた。


 店のシステムを思い返していると、四人の女性が部屋の中に入ってきて、それぞれがニヤついた男たち(俺含む)の隣に座った。


 バジについたのはお色気ムンムンの巨乳美女。長剣男にはスラッとしたモデルタイプ。短剣男にはロリ貧乳、年齢はセーフだそうだ。


 そして俺にはやや痩せているが、あどけない笑顔がかわいいセミロングヘアの女の子。できればバジについてる美女がいいと思ったけれど、この子も悪くないねフヒヒ。


 相変わらず薄いが味は悪くないワインを飲みながら、セミロングヘアの女の子――クララちゃんと言葉を交わす。彼女はまだこの店で働きだしてから半年ほどで、色々と勉強の日々なのだそうだ。


 そうして軽く話しているうちに、ひとりふたりと三人組が個室から別室に消えていった。


 最後に残された俺に、クララちゃんはそっと寄りかかってくると恥ずかしそうに俯きながら口を開いた。


「あの……よかったら、別室でお話しませんか……?」


「うん!」


 俺は鼻息荒く答えた。

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