167話 手続き完了

 ガディムたち解体班にエルダートレントを引き渡し、俺は冒険者ギルドの中へと戻った。


 それから受付カウンターに出向き、エマから200万Rの入った布袋を差し出された。大金だけにあまり見られたくない。俺はささっと中身を確認し素早くストレージの中に入れると、マルレーンを探すことにした。


 しかし適当にフロア内を見回してもマルレーンの姿は見当たらない。そこで念のためにアレサの行列を見てみると、まだ行列の中にマルレーンが並んでいた。


 ちなみに手続き的なことは俺が済ませているので、マルレーンはアレサに報告する義務はなかったりするのだが、アレサお姉さまから「依頼を終わらせたら元気な姿を私に見せにくるようにね」と、厳命を受けていたらしい。


 それにしても並ぶだけでこんなに時間がかかるとはなあ、人気アトラクションかよ。俺はこれからもエマを推していこう。


 とりあえず行列に近づいた俺は、横入りを警戒しているのか舌打ちをしまくる周囲の野郎どもにペコペコと頭を下げながらマルレーンに声をかけた。


「報酬もらってきたよ」


「あっ、イズミさん、ご苦労さまです! ……えっと、こっちはもう少しかかりそうで……」


「今ここで報酬を渡しても大丈夫か?」


 マルレーンは周辺にちらっと目をやり、ふるふると首を振った。


「いえ、額が額ですから……。あの、そのう……大変申し訳ないんですけど……明日の朝、イズミさんの宿……祝福亭でしたよね。そちらにお伺いしてもよろしいですか?」


「そうだな、そっちのほうがいいか。それじゃあソレで」


「は、はいっ、申し訳ないです! お願いしますっ!」


 俺は何度も頭を下げるマルレーンから離れ、ついでに行列をさばいているカウンターの向こうのアレサをちらりと見た。


 いつもは余裕を持って周辺に気を配り、俺にも気づきそうなアレサだが、今日は少し髪型が乱れ、顔色もあまりよくない。かなり疲れてそうだ。


 なんだか大変そうだし、あまり仕事の邪魔をしないほうがよさそうだな。俺はさっさと列から離れることにした。



 ◇◇◇



『バジたちと落ち合う夕方までにはまだ余裕があるし、宿に戻る前に教会にでも行くか?』


 俺はギルドを出たところでヤクモに尋ねた。神様に連絡するために教会に行く頻度を少し上げるって約束をしていたからな。


『おおっ、覚えていてくれたか。そうじゃな、そうしてくれるとありがたい。頼むのじゃ』


 そうして機嫌良さそうに尻尾を振るヤクモと共に、俺は教会に到着した。入り口の大きな扉を開けると、中で祈りを捧げている人がいたが、俺たちと入れ違いで出ていった。


 どうやら今日も貸し切り状態のようだ。この町の信仰ってどうなってんのかねと思わないでもない。


 かく言う俺もさっさとお祈りを終わらせると、まだ熱心にお祈りというか神様への連絡をしているヤクモの邪魔にならないように、一番奥の端っこの席で漫画を読むことにした。


 ぺらぺらと数ページ読んだところでヤクモからのメッセージが届く。


『あーその……お前も祈らなくてもいいのじゃが、とりあえずワシの傍に居ておいてくれるかの?』


 ん? なんだ? 普段そんなこと言わないのに。何か神様に言われたのかね? ……まあ深くは聞くまい。俺はヤクモのいる最前列に戻ると、そこで座ってじっと待つことにした。


『あー……。漫画を読んでいてもいいぞ?』


『いやさすがに神様の目の前じゃあ、失礼かなと』


 女神像は天界の神々にとって目であり耳であるとヤクモが言ってたからな。あまりお祈りはしたくない俺だが、そこまで無礼を働くつもりはない。


『えー……うん、えっとな? 神はそんなの気にしないのじゃ。むしろ、お前が気を使うことに心を痛めるかもしれんな?』


 やや挙動不審気味に視線をさまよわせながらヤクモが答える。なんだか様子が怪しいが、そこまで言うなら堂々と読むことにするかね。


「そういうことなら、遠慮なく」


 俺は声に出して答えると、読みかけの漫画を取り出してその場で読みながら、ヤクモの祈りが終わるのを待った。



◇◇◇



 それから数日ぶりの祝福亭に戻り、ヤクモを部屋に預ける。遅くなるかもしれないのでヤクモ用のメシを適当にテーブルに並べると、俺はヤクモを宿に残して再び冒険者ギルドに舞い戻った。


 時刻はちょうど日が暮れそうな頃合いだ。俺が冒険者ギルドの中に入ると、人相の悪い三人組が入り口近くの席でたむろっていた。


「おっ来たな、イズミ。それじゃあさっそく行くか?」


 また指をこねこねしながらニヤけた顔をするバジ。俺はビシッと背筋を伸ばすと、勢いよく頭を下げる。


「っす。お願いしゃす!」


「ははっ! なんだイズミは初めてか? まあいい、聞かないでおいてやるよ!」


 バジにバンバンと背中を叩かれながら、俺は三人組と共にギルドを出たのだった。

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