165話 帰還

 久々の風呂を楽しみ、さらに風呂上がりにはキンキンに冷えたビールまで飲んでしまった。そんな最高の夜を過ごした翌日。


 体力気力ともに全快となった俺は、マルレーンに頼み込んでトレントのいそうな場所に案内してもらうことにした。


 エルダートレントさえ狩ってしまえば、帰りは別に急ぐ必要もない。そういうことで昼までは森で普通種のトレント狩りをして、バスタブで散財した分を少しでも補充しておきたかったのだ。


 エルダートレントを倒しただけあって普通種のトレントに斧投げはすごく有効で、斧をぶん投げるだけでサクサクと狩れた。その結果、八体のトレントを倒し、3万Gほどのゴールドを補充することができた。


 これで現在のゴールドは23万Gほどに。散財によりスキルポイントは大幅に増え、1700☆を超えることになった。


 スキルポイントを使うためにも人との接触を増やしていったほうがよさそうだ。スキルのレベルアップに使うという手もあるけれど、現状のスキルのレベルで困ったことはないからな。


 ……レベルアップしたときの痛みにビビってるわけではない。ないったらない。


 ちなみに森の中を移動中、生き残ったゲッゾ一味と出会うことは一度もなく、エルダートレントと最初に遭遇した――ゲッゾがやられた場所も通ったのだが、そこにゲッゾの死体もなかった。


 マルレーンが言うには、通りがかりのトレントが養分にするために持ち帰ったのではないかとのことだった。


 冒険者が死んでいるのを見かけた場合、せめてギルドタグを冒険者ギルドに持っていくのがマナーらしいのだが、無いものは仕方ない。さすがに死体を捜索してまでやってやるつもりもないしな。


 俺たちは森を抜けると、ライデルの町へと帰路につく。


 トレント狩りに付き合わせたお礼として、道中のマルレーンの食事は全部俺が奢らせてもらった。


 といってもマルレーンは塩むすびだけで喜んでくれるので、少し張り合いがないくらいだったけどな。


 むしろヤクモの方がおかか食いたいだの、次はシソがいいだのと面倒なくらいだった。あいつには今度ロシアンおにぎりでワサビでも食わせてやろうかと思う。



 ◇◇◇



 そうして翌日の昼過ぎにはライデルの町に到着。俺たちはまず、依頼の達成の報告に冒険者ギルドへと向かった。


 いつもの不人気受付嬢――エマの列に俺とヤクモが並び、マルレーンはアレサお姉さまに報告をすると言って長蛇の列に並んだ。


 すぐに俺たちの順番が巡ってきた。俺の一つ前の冒険者の書類を片付けたエマは、顔を上げて俺の顔を見ると、ほんの少しだけ表情を和らげたような気がした。


「あー……おかえりっす、イズミさん。とりあえず生きて帰ってこられたようでなによりです。それで……依頼はどうでしたか?」


「もちろん狩ってきました」


「えっ、マジっすか? C級推奨の魔物ですよ?」


「ウソ言ったってしゃーないでしょ……。それでどこに置けばいいのかな。結構かさばる大きさなんだけど」


「ええっと、そうっすね……それじゃあギルドの裏手に回ってくれますか? 私はガディムさん呼んできますんで」


 そう言ってエマは『離席中』の札をカウンターに置くと、俺を放置して買取カウンターの方へと小走りで向かった。



 冒険者ギルドを出て建物沿いにぐるっと周ると、たしかに裏口らしい場所があり、そこはちょっとした広場になっていた。たしかにここならエルダートレントを出しても問題なさそうだ。


「おう、イズミ! エルダートレントを狩ってきたんだってな!? やるじゃねえか!」


 いかつい顔のおっさんが似合わない笑顔を浮かべながらギルドの裏手の扉から出てきた。魔物買取の受付職員ガディムのおっさんである。その隣にはエマもいる。


 その後ろには、バジたち『鉄の意志』の三人組までゾロゾロと続く。


「解体の依頼をしていてたまたま居合わせたんだが、俺たちもエルダートレントは狩ったことがねえ。せっかくだから見学させてもらうぞ!」


 バジが大股で歩きながらガディムのおっさんの隣に並んだ。


 ここに俺の知る、いかついおっさんトップ3のうちの二人が揃ったことになる。ちなみに最後のひとりはレクタ村教会の親父さんだ。


 俺は胸焼けしそうな暑苦しいおっさんたちが見守る中、エルダートレントを鞄からにょきっと取り出した。

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