157話 ゲッゾ一味
チンピラリーダーことゲッゾは、いかにもチンピラっぽく口の端を吊り上げ肩を揺らしながら近づいてきた。俺はマルレーンを背中にかばいながら声をかける。
「……どうも」
「おうおう、こんなところで会うとは奇遇だなあ? 一体どうしたんだ? ここにゃあ金になりそうな薬草は生えてねえぞ?」
ゲッゾがからかうように肩をすくめると、ギャハハと周りの子分が笑う。
「指名依頼が入ったんで、魔物を狩りにきたんだよ」
「へえ~そうなのか! それでお前ら何を狩りにきたんだ? もしかして……エルダートレントか?」
「ああ、そうだよ」
どうせ向こうは知ってるんだ。隠す必要はないだろう。するとゲッゾは大げさに両腕を広げてみせた。
「おおっ、偶然じゃねえか! 実は俺たちもなぁ、
「分け前をやるなんて太っ腹だな!」「ヒャハハ! 感謝しろよ?」「まったくだぜ」「もちろん受けるよな?」
取り巻きたちがやいやいと囃し立てる。どうやらからかってるんじゃなく、これは本気の提案らしい。
おそらくは、俺たちを出し抜いて森に先入りしたものの、エルダートレントが発見できずにお手上げ状態だったんだろう。
それで作戦を変更し、俺たちを利用するつもりで森を引き返してきていたというわけか。もちろんこんな提案を受けるつもりはない。
「話にならないな。それじゃあ俺たちはもう行くから」
俺がそのままゲッゾの横を通り過ぎようとすると、肩を強く掴まれた。まあわざと掴まれてやったんですけどね。
この間は見れなかったスキルを素早くチェックする。もはや悪人御用達となっている【悪心】を持っているが、他にはなにもない。
ゲッゾは俺を睨みつけながら凄んだ声を出す。
「おいおい、俺たちがやさしく
その言葉にドッと沸く取り巻きたち。どうやらバジのことも目の上のたんこぶくらいにしか思ってなさそうだ。バジ、ほんといいヤツなのに。
『なんとも
ヤクモが吠えてもニャンニャーンと周囲が和むだけにしかならないんだが。相変わらず自分の鳴き声を過大評価しているらしい。
不機嫌そうに毛を逆立てているヤクモを見たゲッゾはバカにしたように笑った。
「へっ、そいつを俺にけしかけようってか? お前みたいな若造が連れてる従魔なんざ、大したことねえだろうがよ」
ニヤついたままのゲッゾが腰に帯びた剣の鞘に手を添える。こういう何も考えてないチンピラの方がヤクモが弱いと決めつけるもんだな。面倒くさいったりゃありゃしない。
「イ、イズミさん……」
剣呑な空気に、マルレーンが声を震わせて俺の背中に寄り添った。その様子にゲッゾはマルレーンに初めて顔を向ける。
「おいおい。なんだ、そいつ女か? ちょっと顔を見せてみろよ」
「ひっ……」
ゲッゾは下から覗き込むようにフードの中のマルレーンの顔をじろじろと不躾に眺める。そしてニタリといやらしい笑みを浮かべた。
「へえ……地味だが悪くねえな。……よし、イズミって言ったか? お前もう帰っていいぞ。俺らはこの女と遊んでから帰るからよ」
「は? なに勝手なこと言ってんだよ」
「チッ、うるせえなあ。俺らが優しくお話してやってるうちにさっさとどっかに行けよ」
マルレーンを覗き込みながらシッシッと手を払うゲッゾ。どうやら俺の言葉は通じていないらしい。
さっきからヤクモもツクモガミのモニターにお怒りのメッセージを延々と流しまくっている。要約すると『こんな痴れ者どもは許せん。己の尊厳を守るためにもお前は戦うべき』とのことだ。
しかしこれには俺も同意である。話は通じていないし、マルレーンをこれ以上怖がらせるのもよくない。
それに俺も結構イラっときている。俺がストレージからいつもの木製バットではなく金属バットの方をチョイスしたのもその影響だ。
金属バットを取り出した俺はそれを後ろ手に持った。
ゲッゾ一味は何のかは知らないが順番を決めている最中で大はしゃぎ。俺のバットに気づく様子もない。
さて先制攻撃だ――というところで、ゲッゾたちがやってきた方角から、ゆっくりと近づく何かを俺の空間感知が拾った。
それは地面を引きずるように動き、やがて俺の目からも確認できた。
木や藪をかき分けるように現れたのは――周囲の木々に比べて一際大きな樹の化け物だ。
その幹は大人が数人がかりでなければ抱えきれないほど太く、無数にある長い枝はぐねぐねと不気味にうごめいている。
トレントには目があると聞いていた。幹に二つ空いている真っ暗なくぼみがそれだろう。目の下にはぽっかりと大きな口まで空いていた。
気づいたマルレーンが声を上げる。
「あ、あれはエルダートレント……!」
「ああんっ? なんだと!?」
続いてチンピラたちが振り返る。そんなチンピラたちの賑やかな声に反応したのだろうか、エルダートレントは
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