156話 ナイフ投げ
石が木に当たると、すぐに木の陰からラグビーボールのようにずんぐりとした体型のネズミが飛び出した。あれがマルレーンの言ったワイルドラットなのだろう。
ワイルドラットはすぐさまこちらに向かって飛びかかろうとし――俺はそれにナイフを投げつけた。
ツクモガミで買った、レストランで使われていたらしい【木柄のナイフフォーク20本セット】のナイフだ。お値段は3500G。そこそこ重くて投げるのにちょうどいい。
ナイフはコンと軽い音を立ててワイルドラットの額に命中。ワイルドラットはその場で立ち尽くすと、やがて後ろに向かってパタリと倒れた。
「よしっ!」
思わずガッツポーズ。一応昨日はダンボールを束ねて作った
弓矢のように長距離向きではないが、中間距離ならナイフの方が使い勝手がいいだろう。
いつかはナイフを目一杯投げつけながら無駄無駄無駄無駄と叫びたいもんだ。
ちなみにセットで付いてきたフォークの方は【短剣術】が対応しなくてヘナチョコだった。残念だが単品でナイフを買い漁るより安上がりだったので、よしとしよう。
俺はワイルドラットからナイフを抜き取ると、突然披露したナイフ投げに目を丸くしているマルレーンに声をかける。
「このワイルドラットはもらっていい?」
「はっ、はいっ! イズミさんが狩ったのですから、もちろんです! ……でも、たぶんギルドでも買い取ってもらえませんよ?」
「んー、まあダメ元でな」
と言いつつ、さっそくツクモガミに出品。買取価格は300Gだった。薬草採集のついでに潰していたジャギーワームですら500Gだったっていうのに、虫よりも安いのか、お前……。
お前の300Gは俺が有効活用してやるぞ、そう決意した俺は、森をさらに奥へと進んだ。
◇◇◇
このファーロスの森の中程には森を横断するように川が流れており、エルダートレントの目撃情報も川の周辺らしい。
川沿いは開けた場所が多く、マルレーンもそこでキャンプをしたことがあるそうなので、俺たちはそこに目標に歩きながらエルダートレントを捜索することにした。
そうして三匹目のワイルドラットを出品し、移動を再開しようとしたところで俺の空間感知に反応があった。
四……いや五人か。うろうろと周囲を窺うように動きながら、こちらの方に向かってきている。
十中八九、横取り行為の冒険者たちだろう。さて、どうしたものか……。ふと足を止めた俺をヤクモが見上げた。
『イズミ、どうしたんじゃ?』
『ああ、横取りの連中が近くにいるみたいでさ。やり過ごすかこのまま対面するかでちょっと迷ってな』
俺の答えにヤクモはつまらなさそうにフンと鼻を鳴らす。
『なんじゃそんなことか。お前がコソコソする必要ないじゃろ。堂々として文句の一つでも言ってやればいいのじゃ。それに一度連中を見ておけば、後の対処も容易いじゃろう』
『どうせしらばっくれるだろうから文句は言うつもりはないけど……。そうだな、どんな連中か知っておくのは悪いことじゃないな。一度ばったりと会ってみますか』
俺たちはそのまま道なりに進み、やがて遠くの方から人影が見えてきた。
マルレーンは体をこわばらせて、背中のフードを深くかぶりながら呟く。
「あ、あれはゲッゾ
「知っているのか
「……? え、えっと、は、はい……。あの人たちは町の冒険者ギルドでも特に素行の悪いならず者集団です。アレサお姉さまも彼らには近づいちゃいけないって……」
もともと冒険者ギルドってそんなお行儀のいい集まりじゃないことは俺もわかってきているが、どうやらその中でも指折りの連中のようだ。
向こうもこちらに気づき、顔をニヤつかせながら近づいてきているが……先頭の男はどっかで見たことあるような……?
ああ、少し前に冒険者ギルドを出たところで絡んできたヤツじゃないか。バジに一喝されたというのに、どうやら懲りていなかったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます