154話 警戒結界
六人前作っていた牛丼はすべて無くなった。ちなみに内訳は、マルレーン三杯、ヤクモ二杯、俺一杯である。
マルレーンはたっぷり食べて満足げに一息ついた後、俺が一杯しか食べてないことに気づいてペコペコと謝ってきたが、そもそも俺には大盛りの丼物二杯は普通にキツい。
それにマルレーンが頭を下げるたびに、ガン見せずとも元気いっぱいに揺れるものが視界に飛び込んできていたので、俺はむしろ少し得した気分になったよ。
食事が終わったら後は寝るだけだ。
寝る前にマルレーンが警戒結界を張ってくれた。効果時間や範囲によって消費する魔力が増減するらしく、寝る前に張るのが一番効率がいいらしい。
警戒結界を張ったマルレーンは、空間収納から寝袋を取り出した。妙に薄汚れていて、あちこち修繕した後のある年季の入った代物だ。そしてその中に潜り込むとすぐに寝息を立て始めた。
アレサの俺がヘタレ発言を信じるにしても、あまりに
俺はすぐに寝る気にはなれず、ヤクモと一緒に警戒結界の境界線を見に行くことにした。
マルレーン曰く、遠くに見える大岩の辺りまで結界を張ったらしい。その大岩の近くにまで行ってみたのだが、見た目はなにもないように見える。
だが俺の【空間感知】は、明らかに大岩のこちらとあちらの境目にある何かを薄ぼんやりと感じ取っていた。これが警戒結界なのだろう。これに触るとマルレーンが飛び起きるわけだ。
ついつい触ったらどうなるの? っと、うずうずしてきたが、そこはグッとこらえた。おっぱいをガン見しない俺の鋼の精神力はここでも遺憾なく発揮されたのである。
俺はその場でテントを取り出すと、もはや慣れた手付きで組み立てる。ちなみにヤクモも人型に戻って手伝ってくれた。
しばらくしてテントが完成すると、穴掘りにテント設営と労働欲を存分に満たされたヤクモはさっさとテントの中で就寝。
それでもまだ眠る気にならない俺はテントから出ると、ライスクッカーで炊飯を始める。そして大岩にもたれかけると、カンテラの明かりの下で漫画を読むことにしたのだった。
◇◇◇
翌朝、こちらに近づく気配に目が覚めた。どうやらマルレーンがこのテントの周りをうろうろしているらしい。そういえばナッシュやアレサともこんなことがあったな……。
俺は入り口のファスナーを開けて外に出ると、ビクッとしたまま固まっているマルレーンよりも先に声をかけた。
「おはよう、マルレーン」
「お、おはようございますっ! す、すごいですね、そのテント……」
「ああ、寝袋は慣れなくてな。むしろマルレーンはなんでこっちにしないんだ? 収納魔法があるなら入るだろうし」
「わ、私、夜空を眺めながら寝るのが好きなものでして……。昨日はご飯をいっぱい食べたせいか、すぐに寝ちゃいましたけど……」
なるほどなあ。たしかにそういう楽しみ方もあるかもしれないな。キャンプは奥が深い。
「それじゃあ片付けるから、ちょっと待ってくれよな」
そう言ってテントを縫い付けるペグを取ろうとすると、何かを言いたげにマルレーンが口をパクパクとさせた。
「……よかったら中を見てみるか?」
「いいんですか!? あっ、あっ、ありがとうございます!」
俺が入り口を開けてやると、目を輝かせたマルレーンがものすごい勢いでテントの中に突入していった。
普段は寝袋を使っていても、やはりキャンプ女子的にはテントも興味があるのだろう。マルレーンが入っていったテントを微笑ましく見つめていると――
『ぎょわああああああ! なんじゃなんじゃ何事じゃ!? イズミー! イズミはどこじゃー!』
ヤクモから慌てふためいたメッセージが届いた。ああ、そういや中でヤクモがまだ寝てたんだったわ。
◇◇◇
たっぷりとマルレーンがテントを堪能した後は、朝食の時間だ。
マルレーンが言うには、昼に目的地に到着するとは言え、昼食を食べて腹いっぱいで戦うわけにもいかないので、朝は多めに食べておく方がいいらしい。
そういうことならと、俺は昨日の夜に増産したおにぎりをさっそく取り出した。
昨日は鮭フレークだけだったが、さすがにそれだけだと飽きる。そこで昨夜はツクモガミで「のりたま」やら「しそ」やらのふりかけも購入し、いろいろ試すことにしたのだ。
もちろんマルレーンにもおすそ分け。ちなみにヤクモが気に入ったのは「おかか」、マルレーンは「塩むすび」だった。塩むすびはさすがに
もう俺の届かぬ領域までいってしまったマルレーンは、おにぎりの代わりにはなりませんが……と、申し訳なさそうにブライプルという果物を干したものを俺にくれた。
見た目は干し柿の青色バージョンって感じなんだが、ヤクモが言うにはブライプルはなかなか高級な果物らしい。
味は青りんごを干してあの味を濃縮させたような? 酸味と甘さが一緒になったような味でけっこううまい。ヤクモの分ももらったのだが、ヤクモは要らんというので俺がヤクモの分もごちそうになった。
そして移動を再開。数時間歩き、ついに目的地ファーロスの森に到着した。
だが森を目の前にしたマルレーンが険しい顔を浮かべる。
「これ、もしかしたら先に誰かが森に入っているのかもしれません……」
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