151話 野営の準備
倒したフィールドウルフは俺とマルレーンで二匹ずつ分け合うことになった。
最初に倒した一匹とウィンドカッターでズタズタになった一匹を俺が貰い、残りのズタズタ二匹がマルレーンだ。
俺はズタズタの方二匹でいいと言ったのだが、前衛の方が危険ですからとマルレーンが譲らなかった。
フィールドウルフの毛皮には需要があるのだけれど、こうもズタズタだとギルドの買取価格が安くなってしまうらしい。そういうわけで高く売れそうな方を俺に差し出してくれたわけだ。
そうして貰った二匹を、さっそくツクモガミの方に出品することにした。ジャギーワームのような雑魚以外では久々にまともな魔物の買取となる。
その買取価格は、頭を割られたモノとズタズタのモノ、どちらも同じ1500Gだった。
どうやらイーグルショットのようにごっそりと体が削られなければ、毛皮がズタズタだろうと買取価格は減少しないようだ。
ちなみにヤクモはこの辺の機能は管轄外なので細かい仕様までは知らなかったそうなんだが、俺自身もこんなことに今まで気付かなかったことに少し驚いた。
よくよく思い返してみれば、今までは魔物に矢を一、二回撃って、外傷もさほどない状態で仕留められていたからな……。改めて弓術スキルのすごさにビビる。
もっと早く知っていれば、やっぱりズタズタ二体を俺が引き取っていたんだけどな。なんだかマルレーンに申し訳ない気分になりながら、俺たちはファーロスの森を目指し移動を続けた。
◇◇◇
その後は魔物に遭遇することなく進み、やがて日が暮れかけてきた頃、マルレーンが野営を提案した。
マルレーンがたまに趣味の野営でファーロスの森に出かける際、いつも利用している中継地点の野営スポットなんだとか。小川が近くに流れているのでいろいろと便利なんだそうだ。
さっそく俺たちは小川のほとりで野営の準備を始める。まずは定番の焚き火の準備からだ。焚き火と聞き、ヤクモの目がキラリと光った――
そうしてヤクモが泥だらけになりながらせっせと穴を掘り、そこに俺が昨日のうちに薪売りから買った薪を取り出してセットしていく。
仕事終わりのドヤ顔ヤクモに見つめられながら薪を組み終え、魔道具と言い張ってライターでも出そうとしたところで、マルレーンが口を開いた。
「あ、あの、よければ私が火をつけましょうか……?」
「おっと、それじゃあお願いしようかな」
どうやって火をつけるのか興味がある。俺が薪から少し離れると、代わりにマルレーンが薪の前にしゃがみ込み、人差し指をピンと立てた。
「薄明をもたらせ……ファイアーボール」
ボウッ……と微かな音を立て、人差し指の先に飴玉ほどの小さな火球がふわりと浮かんだ。
マルレーンがその火球を穴の中にポイッと投げ入れると、それはすぐに薪に取り付き、次第に炎を大きくしていく。
『ファイアーボールって、もっとでかいのを想像していたんだが』
『どうやら前に付ける文言で、魔法の特徴を変化させるようじゃのー』
『なるほど、【薄明をもたらせ】だから、ちっちゃな火球ってことか。俺がファイアーボールを使うときも、こういうの言う必要があるのかね』
技名を叫んだりするのは嫌いじゃないしむしろ好きな方だが、いちいち技名の前に付ける文言まで覚えるとなると面倒くさそう。
『お前のはツクモガミ経由のスキルじゃからいらんぞい。己がイメージしたものが即座に
『あらま。相変わらず便利だな、スキルって……』
ヤクモと通話しながらパチパチと音を立てて広がっていく炎を眺める。するとマルレーンがオロオロと手をさまよわせ始めた。
「じ、実は、私、ファイアーボールも使えるんです……。そ、その、黙っててすいません……」
頭をぺこぺこ下げるマルレーン。しまった、うっかりマルレーンに感想を言い忘れてた。そりゃあ新魔法を見せたのにだんまりしていたら変に思われるよな。俺は慌てて答える。
「あっ、いやいや、秘密にするのは冒険者なら普通だろ? そんなの気にしないって! それより言ってくれてありがとな」
最初から知っていたので驚きはなかったけれど、それでもマルレーンが黙っていた魔法を打ち明けてくれたのは嬉しい。俺をそれなりに信用してくれたということだからな。
そういうことなら、俺からもなにか礼を返すべきだろう。
「なあマルレーン。教えてくれた礼と言っちゃなんだけどさ、よければ今夜は俺が用意したメシを食べないか?」
「え、いいんですか!?」
食いつくように前のめりになるマルレーン。昼のおにぎりも美味しそうに食べていたし、これはかなり期待されていると見える。
「おう、もちろんいいよ」
そういうことなら頑張らないとな。俺は立ち上がるとストレージから作業台を取り出した。
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