150話 連携練習

 マルレーンが目を細めながら狼の集団を見つめる。


「あれは……フィールドウルフですね」


 おお、あの灰色の狼がフィールドウルフか。名前だけはレクタ村で聞いてはいたけれど、一度もお目にかかることのなかった魔物だ。


 たしか討伐推奨ランクは、D級のホーンラビットよりも低いE級なんだよな。


 ホーンラビットと同じように群れで襲ってくるけど、あいつらよりも群れの個体数が少なく、見通しのいい平原を棲み家に好むため戦いやすいとのことだった。


 今もこちらに向かってきているのは四匹だけだ。俺たちが顔を向けてじっと見つめているにもかかわらず、じわじわと様子を窺うように距離を詰めてきている。


 あー、弓ならここから撃ちまくって、あっという間に倒せそうなんだけどなあ……。うずうずと弓を使いたくなる衝動をグッと我慢し、俺はマルレーンに声をかける。


「マルレーン、さっき言った作戦の予行練習をこいつらでやってみようか」


「はっ、はいっ……!」


 緊張気味にマルレーンが答える。いつの間にやら彼女の両手には身長よりも高い、いかにも魔法使いの杖と言ったグネグネとして先端には薄緑の石がはめ込まれた物が握られていた。


『イズミ、しっかりやるんじゃぞ!』


『おうっ』


 ヤクモからのメッセージにサクッと返信し、俺はフィールドウルフの方へと駆け出した。


 すぐにフィールドウルフは俺を最初のターゲットに認定したようだ。全員が立ち止まると前かがみになり、牙を剥きながら臨戦態勢に入る。


 そしてまずは小手調べとばかりに、四匹の中で一回り小さくて若い個体が俺に向かって突っ込んできた。


 バカ正直に真正面からだ。俺はバットを振りかぶり、そのままフィールドウルフの頭に目がけて――振り下ろす!


「ギャゥッ!」


 短い叫び声を上げたフィールドウルフはそのまま倒れ込むとピクリとも動かなくなってしまった。よく見るとフィールドウルフの頭はぱっくりと割れてしまっている。


「え? あれ?」


『やりすぎじゃ! お前が倒したら連携の練習にならんじゃろがい!』


 なんだか溢れて出てくる力を、そのまま相手にぶつけてしまったんだよな。見ればバットも大きくヘコんでいる。


 そういえば、これが【剛力】を習得しての初めての魔物との実戦か。どうやら【剛力】は思った以上に力を底上げしてくれているようだが、これじゃあ練習にならない。


「すまん、次はもう少し力を抜くから」


 背後に軽く手を振り、俺は再びフィールドウルフたちにバットを構えた。


 俺を手強い相手と見たのだろう。残りの三匹は俺を睨みながら唸り声を上げると、突然一斉に飛びかかってきた。


 一匹は左側から迂回するように、もう一匹は真ん中から真っ直ぐ、最後の一匹は緩急をつけるようにワンテンポ遅れて襲いかかる。なかなか息のあったコンビネーションアタックだ。


 だが、俺の心に焦りはなかった。まずは左側からやってきたフィールドウルフの脚をバットで打ち払って転がせる。


 次に飛びかかってきた真ん中のヤツにはバットを突き出し、カウンターで鼻先を潰してやった。ギャインと悲鳴を上げたフィールドウルフが背中から地面に叩きつけられた。


 遅れてやってきた最後の一匹にはバットを横薙ぎにし、横っ面にバットをお見舞いだ。


 今度は力加減もうまくいったと思う。俺に迎撃された三匹はよろめきながらも体勢を整え、再び唸り声を上げると――


「イズミさん、今です!」


 マルレーンの鋭い声が飛んだ。


「よしきた!」


 俺はすばやく横に避け、マルレーンとフィールドウルフとの射線を空ける。マルレーンが叫んだ。


「切り裂け風刃、ウィンドカッター!」


 さっきまでのおどおどしていたマルレーンらしからぬ堂々とした声と共に、彼女の前に緑色の魔力の籠もった二枚の刃が現れる。それは螺旋を描きながら真っ直ぐにフィールドウルフたちの元へと突き進んだ。


「ギャイイイインッ!」


 それに巻き込まれたフィールドウルフたちが断末魔の悲鳴を上げると、蹂躙されるかのようにその身が切り刻まれていく。


 そして刃が過ぎ去った後には、いくつかに分断されたフィールドウルフの死骸が地面に転がっていたのだった。


 うへえ、すごい威力だな……。でもこれならイーグルショットのように素材ごと削りとるということもなさそうだ。


「フニャアアアアン……」


 俺がウィンドカッターの威力と有効性に感心をしていると、背後から情けない鳴き声が聞こえた。


『おげえ……。さっきのしゃけふれーく、全部吐きそうじゃ……』

 

 振り返ると、マルレーンの背後でヤクモが腰を抜かしていた。これもなかなかの衝撃のグロ映像だからなあ……。


 まあそれはともかく――


「マルレーン、やったな!」


「はいっ! イズミさんの援護のお陰です!」


 興奮気味に顔を赤くしたマルレーンが軽く飛び跳ねながら声を上げる。そして俺たちは上々の成果に互いに笑みを浮かべたのだった。



――後書き――


 150話まで読んでくださりありがとうございます!


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