149話 メイン盾きた!

 昼食が終わり、俺たちは移動を再開した。最初の頃に比べると少しは話しやすくなったマルレーンと殺風景な平原を歩きながら、エルダートレント討伐についての相談をすることにした。


 今頃になってようやく始めるのかと思わなくもないけれど、どうせ森に到着するのは明日の昼頃なのだ。これから森に到着するまで、やろうと思えば睡眠時間以外は相談できる。さすがにやらないけど。


「俺、武器はこれを使うよ」


 俺はストレージからバットを取り出し、マルレーンの前に差し出してみせた。


 このバットは今まで愛用していた木製ではなく、新しく購入した金属バット。軽いのであまり攻撃には向いていないが、木製よりも強度があるので身を守るのに使うなら丁度いいと思ったのだ。


 ちなみにバジから聞いた話によると、トレント相手に長剣はあまりよくないらしい。枝に擬態した腕に剣が絡み取られたり、幹を斬りつけると刃が抜けなくなることもあるそうだ。


「な、なんだか変わった形の棍棒ですね。しかも木製じゃなくて……はがね……ですか?」


 中古品でかすり傷がたくさんついてる銀色のバットをマルレーンが興味深げに眺める。


「なんかの合金なんだってさ。俺もよく聞かないで行商人から買ったから詳しくは知らないけど」


 とりあえずいつものようにしらばっくれる。気のいい冒険者はあまり深入りして聞いてこないので、こう言っておけば大丈夫だというのが最近わかってきた。


「とにかくこの棍棒でトレントの攻撃をしのごうと思ってるんだよ。それで隙があれば――こっちを使って攻撃だな」


 俺は次に斧を取り出す。以前買った手斧よりも一回り大きくずっしりと重い。ツクモガミで売ってた中では最長サイズのドイツ製の逸品である。


 バジ曰く、斧は刃も短く重さもあるので、振り抜けば幹に食い込むこともないそうだ。そういうことで斧を武器に選んだ。それにトレント狩りで斧を使うのって、なんとなくロマンを感じるしな。


「後は頃合いを見計らってマルレーンが合図をしてくれれば、俺が横に避けるからさ。そこで君が後方からウィンドカッターで攻撃してくれればいい」


 今回は俺がメイン盾になるしかない。俺はバットと斧で応戦してトレントの意識をこちらに集中させ、トレントが無防備になったところを本命のウィンドカッターをぶち当てるといった作戦だ。これで勝つる!


 ひと通りの説明が終わったところでマルレーンがペコペコと頭を下げながらぼそぼそと話し始めた。


「わ、私はパーティを組んだことがないので、イズミさんに従います。そ、その、お、お手数おかけします……」


 具体的な話に及んだせいか、マルレーンは妙に緊張した面持ちだ。もともと背が低いがその上に自信なさそうに背筋を曲げ、頼りないことこの上ない。


 こんな感じで本番は大丈夫なのだろうか。いや、俺は俺で未知の魔物との接近戦とか心配しかないのだけれど……。うーん、不安だ……。


 思わず出そうになったため息を噛み殺していると、そこでヤクモから檄が飛んできた。


『うおいイズミ! そんな情けない顔をするない! 一応お前がリーダーなんじゃろ!? 上司が弱気なようでは部下の動きも鈍るのじゃ! ビシっと胸を張らんかーい!』


 相変わらず偉そうな物言いだが、これは正論だろうなあ。


 俺はハイハイとヤクモをなだめると、むんと胸を張りつつ、とにかく頑張ろうぜとマルレーンの肩をポンと叩いた。俺にナデポの才能はないらしく、マルレーンの様子はなにも変わらなかったけど。


 しかしまあ、たしかに深刻に考えすぎるのはよくないけれど、それでもぶっつけ本番がキツいことには変わりないんだよな。


 ファーロスの森には目的のエルダートレント以外にも他の魔物や通常種のトレントもいるらしいので、そこで少しは連携の練習をするのもいいかもしれない。


 けれどどうせやるなら明日やるよりも、体力のあり余る今日のうちをやっておきたいよな――


 などと思っていると、俺の空間感知になにかが引っかかった。


 感じた方角に顔を向けると、遠くのなだらかな丘を越えて数匹の狼らしきものがこちらに向かってじわじわと近づいてきているのが見えた。気配は獣ではなく魔物のソレだと感じる。


 移動中に魔物との遭遇なんて、普通なら不運なことなのかもしれないけれど、この場合は渡りに船かもしれない。俺はバットを構えるとマルレーンに魔物の接近を知らせた。

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