147話 遠征

 冒険者ギルドでマルレーンと知り合った翌日。俺たちは冒険者ギルドで合流してルーニーの依頼書にサインをし、エルダートレントの討伐へと向かうことになった。


 パーティーを組むわけだし、正直もう少しマルレーンと親睦を深めたかったんだが、バジたちと相席したのがマズかった。


 強面のバジたちにマルレーンが固まってしまい、ほとんど会話を交わすことなく終わってしまったのだ。まあ代わりにバジたちからはタメになる話を色々と聞けたんだけどね。


 いっそルーニーにお願いして指名依頼を延長してもらおうかとも思ったのだが、ルーニーが独自に仕入れたらしいエルダートレントの目撃情報も、情報の鮮度が高いうちにいかないと見失ったり先に討伐されたりと、マイナス面の影響が大きそうなので諦めた。


 幸いかどうかはともかく、目的地は徒歩で一日かけた先にあるファーロスの森。俺の初めての遠征となる。道中でマルレーンと信頼関係を築いていけばいいだろう。



 俺とマルレーン、そしていつもどおり付いてきたヤクモの二人と一匹はライデルの町の南門から出ると、そのままひたすら南へ向かって歩く。


 一応ルーニーからは大まかな地図を渡されているが、正直たどり着ける自信はない。


 そこで俺は先輩冒険者のマルレーンに地図を渡し、彼女に先導を頼むことにした。なんの目印もないような平原だが、マルレーンはしっかりとした足取りで進んでいく。


「なんだか慣れてるっぽいけど……マルレーンは遠出とか結構するのか?」


「は、はい……。私、独りで遠出をして野営するのが趣味みたいなもので……。ファーロスの森にも行ったことがあります」


 ソロキャンプ女子みたいなモノなんだろうか。たしかに彼女には野営が苦でもないスキルが備わっていた。


 バジのテーブルで話をする際、怖気づいたマルレーンの背中を押して椅子に座らせ、その時にスキルをチェックさせてもらったのだ。そのスキルは以下のようなものだった。


《精神スキル》

【ウィンドカッター】【マジックミサイル】【ファイアボール】【警戒結界】


《特殊スキル》

【空間収納】【火耐性】【怯懦】


 さすがアレサに実力を認められるだけあって、かなりの有能っぷりだった。


 三種の攻撃魔法と【警戒結界】。【警戒結界】とはヤクモの説明によると、ドーム型の直径五十メートルほどの結界を張れるそうで、誰かが結界に触れると術者にはすぐにその存在がわかるし、寝ていても意識が覚醒するらしい。


 俺の持つ【空間感知】と似ているが、意識を向ける必要がある【空間感知】と違い、【警戒結界】は発動させておけば後は放置してもいいのが便利だ。すごく野営向きのスキルである。


 それに【空間収納】のスキル。ストレージと似たような収納魔法なんてのもあるとは聞いてはいたが、実際持ってる人は初めて見た。


 彼女がだぶついたローブを着ているのも、収納魔法をごまかすためなんだと推測できる。


 ちなみに【空間収納】というのは魔道鞄に付与されているものと同じもので、収納しても中の時間が経過するらしい。【時空収納】という、時間が止まったまま収納できるストレージとほぼ変わらないスキルもあるんだとか。


【火耐性】はそのまま火の耐性が強まる。【ファイアーボール】も使えるそうだし、そこから必要に応じて生えたスキルかもとはヤクモの談だ。


 ここまでのすべてスキルを覚えさせてもらった。【空間収納】もだ。時間が経過する収納も役に立つだろうからな。


 ごっそりと☆が減ったが、今日の討伐に備えてツクモガミでも色々と買ったので、☆が余っている状態には変わりなかった。減ったのがゴールドだけだ。今回の討伐でついでに他の魔物を出品できればいいんだけどな……。


 なお、覚えなかったスキル【怯懦きょうだ】。これは臆病とも言い替えることができる言葉だが、そのまま恐怖耐性が低いということらしい。


 バジの持つ【蛮勇】の逆みたいなもんだ。スキルを習得してもいいことはひとつもないと思う。これを持つマルレーンは大変だろう。少し心配になった俺はマルレーンに尋ねる。


「マルレーン、俺みたいに昨日出会ったヤツといきなりパーティを組んで遠出って、大丈夫なのか? いや、もちろん何もする気はないけどさ」


「は、はい、アレサお姉さまも言ってました。イズミさんは紳士的というかヘタレのたぐいで貞操の危険はないから安心なさい――ってあああああああっ! こんなこと言っちゃ駄目ですよね! すいません、忘れてください! すいません! すいません~!」


 必死にぺこぺこと頭を下げ続けるマルレーン。そ、そうか、アレサは俺をそういう風に見ていたのか……。


『ムハハ! よくわかっておるではないか!』


 ヤクモはメッセージを送りつけると、からかうように俺の周りをぐるぐると回る。


 俺は気にするなとマルレーンに手をひらひら振ると、釈然としない気持ちを抱えながら何もない平原をトボトボと歩いた。

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