145話 【パーティー】【いりませんか?】
空の色は夕暮れに近づきつつあり、そろそろ仕事を終えた冒険者が冒険者ギルドに戻ってくる――そんな時間帯。ルーニーの薬師局を出た俺とヤクモは冒険者ギルドへと向かった。
目的はもちろんバジたち三人組の勧誘だ。C級冒険者の彼らならきっとエルダートレントを倒すための頼りになる戦力になってくれるはず。
俺たちが冒険者ギルドに入ると、すぐに目当てのバジは見つかった。いつもの二人と談笑していた彼に今回の話を伝えたところ――
「すまねえイズミ。力になってやりてえんだが、実は俺たちも明日から指名依頼で遠征が決まっててなあ」
なんてこった、いきなりアテが外れてしまった。バジは申し訳なさそうに眉を下げながら受付カウンターにちらりと視線を向けた。
「なあイズミ、お前みたいに即席パーティを組んで依頼に取り組むことはまれにあるんだがな、職員が人材の斡旋もやってくれるんだよ。一度受付で相談してみたらどうだ?」
たしかに職員なら冒険者の実績も把握しているし、相談するにはうってつけかもしれない。なによりバジに断られ、ナッシュも遠征から戻ってきていない今、他に手はないのだ。
「それじゃあ一度話してきます」
「ああ、それでどうしてもいいヤツが見つからなかったときは、依頼者に日を改めてもらってさえくれれば、今度は俺らが日程の都合つけるからよ。その時は一緒に行こうぜ!」
バジたちは三人揃って頼りがいのある笑みを浮かべる。今回はタイミングは悪かったが、本当に気のいいおっさんたちだ。俺は三人組に頭を下げると、いつもの受付嬢の列に並んだ。
相変わらずあっという間に順番が回ってきたので、さっそく受付嬢に相談してみた。
事情を説明していくと受付嬢の顔が徐々に険しくなっていき、最終的には一周回って呆れたような顔でため息をつかれた。
「……はあ。イズミさん、F級になったところっすよね? もう少し身の丈というのを考えたほうがいいんじゃないすか?」
「まあ、たしかに実績はないんですけど、やれないことはないんじゃないかなーって……」
ルーニーとヤクモに焚き付けられた形ではあるが、俺だって勝算がないわけではないのだ。それをどう説明しようかと考えていると、ふいに声をかけられた。
「あら、どうしたの? イズミ君」
その声に顔を向けると、私服姿のアレサがカウンターの向こう側に立っていた。どうやら今日は非番のようで、なにかの用事でギルドに訪れたようだ。
せっかくなので、アレサにもかくかくじかじかと説明した。
「――なるほど、ルーニーがねえ……。まったくあの子ったら……」
幼馴染らしいアレサには、ルーニーの行動が目に浮かぶのだろう。さもありなんと言った風に苦笑を浮かべている。
「アレサさんからもイズミさんに言ってやってくださいよ。指名依頼ですし私たちには依頼の拒否権はありませんけど、かと言ってF級冒険者がC級の魔物討伐するのはさすがに無謀ですって」
どこか苛立った口調の受付嬢を受け流すように、アレサがにっこりと笑いかけた。
「まあまあ、待ってよエマちゃん。前にも言ったと思うけど、イズミ君は将来有望よ? エマちゃんの専属じゃなければ、私の専属になってもらいたいくらいなんだから」
「はあ……。専属ってそんな話は一切してませんし、なんならアレサさんが持っていっても結構っすよ」
興味なさそうに髪の毛をいじりながら受付嬢が言った。というかエマという名前だったのか。
「あらあら、そんなこと言ってると、本当に持っていっちゃうわよ~?」
「別に……いいっすよ」
「って、ちょっと! 何を勝手に話を進めてるんですか。俺はここからよそに移るつもりはないですって」
こんな楽な受付嬢、他にいないからな。俺が勝手に進んでいく移籍話を止めると、アレサがからかうようにニンマリと人の悪い笑みを浮かべた。
「ですってよ、エマちゃん。ウフフ」
「そっすか」
エマは髪の毛をいじり続けながら、そっぽを向いてつぶやく。どこか照れているような気がしないでもないが、無表情なのでわかりにくい。そこでヤクモからメッセージが届く。
『イズミー。後ろの順番待ちの男が舌打ちをしたのじゃ。雑談をしとらんで話を進めないと、ワシ、プレッシャーでどうにかなってしまいそうじゃぞ……』
おお、そうだった。キャッキャウフフと美人二人と話すのも悪くないが、いい加減話を進めよう。
「とにかくですね、なるべく高ランクの冒険者を紹介してほしいんですけど」
「エマちゃん、どうなの?」
アレサの問いかけにエマがふるふると首を横に振った。
「私がよく担当してる冒険者の皆さんは低ランクが多いですから。一緒にC級の魔物を倒そうなんて命知らずは一人もいませんよ」
「ふーん、そういうことなら、うちの専属でいいコが一人いるんだけど、紹介してもいいかしら?」
「私は問題ないっす。イズミさんは?」
「俺も問題ないです」
いつも行列に並んでいるのは肉食系な野郎だらけ、そんなアレサの専属の冒険者だ。きっと頼もしい盾になってくれるようなマッチョガイに違いない。
「わかったわ、任せてちょうだい」
俺たちの了承を得たアレサはキョロキョロとフロアの方を見回す。
「……あ、いたいた。ちょっと待っててね」
アレサは俺たちに一声かけると小走りでカウンターを回り込み、フロアの方へと向かっていった。
その先にいたのは――あれ? なんか思っていたのと違う……。
アレサが話しかけていたのは、地味なローブを着た背の低い女の子だった。
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