144話 縛りプレイ
秘密の技――イーグルショットを使うなってどういうことだ? とりあえず聞いてみるしかないだろう。
「なんでそんな縛りプレイをしなきゃいけないんですか?」
「しっ、縛りプレイ!? イズミ君! 唐突にハレンチなことを言うのはやめたまえ!」
ルーニーは顔を赤らめると、両腕を抱えるようにして身体を隠した。余計におっぱいが強調されてエロい。いや、そもそも俺はエロい意味で言ったんじゃない。
「自分の行動を縛るってことです。それで、どうして使っちゃ駄目なんですか?」
冷静な俺の言葉に、ルーニーは頬を染めたまま恥ずかしそうに口を開く。
「むうっ。なんだい、まぎらわしい……。話を戻すとだね、あの日……君にロックウルフルーラーを見せてもらったが、半分近くごっそりと削れていただろう? 依頼者側としては素材が破損しているのは困るってことだよ。これは私だけじゃなく、素材目的の討伐依頼ならすべての依頼者が同じことを言うはずだ。人によっては報酬の減額、目的の部位がなければ依頼の失敗ということにもなりかねないと思うよ」
『イズミよ。この女の言うことは一理あるぞ。それにツクモガミに出品するにしても、こちらも削れば削るほど金額も下がるし、常に最大火力でぶっ放すのも考えものじゃろうて。……ところで、パンケーキのおかわりって貰えないかの?』
ヤクモが空の皿を見つめながらメッセージを送信してきた。とりあえずたっぷり注がれた緑の液体の方を飲めばいいと思うよ。
しかし……言われてみればたしかにそうだ。
今後、金策としてやっていくからには、倒せばそれでいいって考えはよくないのかもしれない。
「とりあえずルーニーさんの言い分はわかりました。でも、それじゃあ俺にC級の魔物を倒せるかわかんないですよ。一応言っときますけど、俺はF級ですからね」
「そうかなあ。私は君ならやれると思ってるんだが」
ルーニーがじいっと俺の顔を見つめた。この眼鏡が俺の何を知ってるってんだ……って思ったけど、なんやかんやで色々と見せてる気がするな。弓術、棒術、ヒール……あとは美味いメシ。
「私は君ほど器用にいろいろとこなす人物を見たことがないし、さらには
そう言ってルーニーはヤクモをじっと見る。どうやらルーニーまでもがヤクモにはなにかあると思っているようだ。本当になんもできない従魔なんだけどな……。
ちなみにヤクモはまだパンケーキの入っていた皿を未練がましく見つめていて、ルーニーの視線には気づいていない。
「……むう、まだ足りないかい? それじゃあ、命の危険が迫るようなら例の技を使ったって構わないよ。これでどうだろう?」
単にヤクモの様子を眺めていただけなんだが、ルーニーがさらに譲歩してきた。解禁と言われるまでもなく危なくなったら使うのは当然なんだが、公認されると気の持ちようも違う。
「そもそも……どうして俺に依頼するんですか? 普通に依頼書を冒険者ギルドに提出してきたらいいじゃないですか」
俺の問いかけにルーニーはフォークをぷらぷらとさせながら答える。
「だってイズミ君、C級の依頼だよ? まったく知らない冒険者に大金を払うより、知ってる君に払ったほうが気分がいいじゃないか! 君は全然私のお礼を受け取ってくれないし!」
どうやらお礼を受け取らないのが腹に据えかねていたらしい。ルーニーは自分のコップの緑の液体をぐいっと飲み干すと、すねたように唇を尖らせた。というかあの液体、本当に飲めるのか……。
「大金って、依頼料いくらくらいなんですか?」
「とりあえず100万R予定だよ」
掲示板に貼ってる依頼書を見たことあるが、C級の討伐依頼の相場といえば、だいたい50万Rから100万Rくらいだったはずだ。
正直100万の現金収入は魅力的だ。それだけ現金があれば、しばらくは現金に困ることはない。そこにルーニーはさらに付け加える。
「でもね、君がF級であり、討伐に不安を感じる気持ちもわかるんだよ。そこで今回は依頼報酬を倍増の200万Rにしようじゃないか!」
「え? それってどういうことですか?」
「だからね、誰かを誘ってパーティで行ってくれたまえ! 報酬の分配は君に任せよう!」
うお、ずいぶんと太っ腹じゃないか。これは行くしかないんじゃないか……? 本格的に悩みだした俺に、ヤクモからメッセージが届く。
『イズミよ。クライアントが高額な報酬を支払うということは、それだけお前の能力を買っているということじゃぞ。仕事を請け負うのにこれほどの誉れはないじゃろうて。ここは引き受けるしかなかろう!』
ヤクモの後押しが決め手となった。それに誘う相手なら心当たりもある。
「そういうことなら依頼を受けます。明日からでいいですよね?」
「問題ないっ! それじゃあよろしく頼むよイズミ君! ……ところで、まだお茶の方に口をつけていないようだね。これは私の自信作だ、しっかり味わってくれたまえ!」
飲まずに帰るつもりだったが、目ざとく見つかったからには仕方ない。ルーニーとはいえ、依頼人だしな。
俺はヤクモと目配せをして、二人同時に緑の液体を口に含む。そして店内に俺とヤクモの絶叫が響き渡ったのだった。
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