139話 休日
F級昇級記念鍋パをした翌日の朝。目を覚ました俺はのんびりと体を起こし、ぐうーっと伸びをした。すると足元のヤクモも起きたようで、モニターにメッセージが届く。
『おはようなのじゃ。昨日は楽しかったのうー。ワシまた鍋を食べたい』
「そうだな。今度は別のでやってみるか」
『別ってなんじゃ。ウンドを入れて肉と野菜を入れるのが鍋じゃろ?』
「他にも汁や具材を変えられるし、鍋はバリエーションが豊富なんだよ」
『なんと……それでは無限に鍋が食べられるではないか……!』
「そうだぞ。鍋は奥が深いんだ……っと」
などとヤクモの相手をしつつ、昨夜はほろ酔いで弄るのはよくないと放置していたスキル画面を見る。昨夜は機嫌のいいマリナに肩をパシパシ叩かれ、マリナのスキルを習得できるようになっていたのだ。
身体スキルと精神スキルはなかったが、特殊スキルには三つもあった。【料理】【爪磨き】【気配遮断】だ。
【料理】は習得済だ。まずは【爪磨き】からチェック。
《爪をきれいに磨けるようになるスキルじゃ。それ以上でもそれ以下でもないわい。スキルポイント3を使用します。よろしいですか? YES/NO》
たしかに爪に色はついてなかったが、マリナの爪はツルツルだったな。いらん、パスだパス。次は【気配遮断】をポチッ。
《その名のとおり、気配を遮断するスキルじゃ。レベルアップせねば完璧なものとはならんじゃろうが、それでもおいそれとは気づかれまいよ。スキルポイント30を使用します。よろしいですか? YES/NO》
そういえば俺がぐっすり寝ていると、枕元にマリナが立っていたことがあった。あれも【気配遮断】の片鱗だったのかもしれない。これは必要なスキルだろう。俺はYESを押した。
◇◇◇
ひと通りの作業が終わった後は、一階に降りて食堂で朝食を食べた。そこでマリナのパパママに昇級祝いのお礼を伝えたのだが、その場でもまたお祝いされてしまった。
兄ガディムの紹介とはいえ、マリナと変わらない歳の子が冒険者としてやっていけるのか、内心は気が気でなかったらしい。どうやら俺が思っていた以上に気にかけてくれていたみたいで、本当にありがたいことだと思った。
朝食後は再び部屋に戻り、ベッドで寝転びながらツクモガミで出品されているものをダラダラとチェック。
適当に商品を眺めるだけでも結構楽しいんだよな。俺の暇つぶしといえば、出品閲覧とアクアの水貯めが二大巨塔だ。どちらも金を使わないでも済むし。
『のう、今日は冒険者ギルドには行かんのかー?』
ヤクモがどこか不満そうな顔をして、ベッドの下から俺を見上げる。
「今日は休日にするわ。っていうか冒険者になってから今日まで、休みを一日もいれなかったとか働きすぎだろ俺……」
ルーニーから毎日指名依頼が入るので、休むに休めなかったんだよな。そのお陰でさっさと昇級できたわけなんだけど。
『うーむ。……まあ、たまには休日もよかろ。今日はずっと部屋におるのか?』
「いんや、午後からはちょっと出かけるつもりだ。とりあえず午前中はゆっくり過ごすよ」
……などと言ってみたものの、今日まで必死に働いていたせいか、急にオフにすると何をやって過ごせばいいのかわからんな……。
ヤバいぞ、これはブラック企業で働いている者の思考回路だ。本来の俺はもっと適当でぐうたらしていたハズ……。思いだせ、前の世界での休日を……!
「……よし、久々に漫画でも読むか」
俺に天啓が降りてきた。そうだよ俺ってやつは、休みの日には後輩の田口から借りたり自分で買ったりした漫画とかラノベとかゲームとか、そんなのを楽しみながら日々を自堕落に過ごしていたじゃないか。
それにようやくゴールドとリンを稼げる土台も出来た。これから多少は遊びに金を使ってもいいはずだ。
俺がさっそくツクモガミで漫画を検索していると、モニターにヤクモのメッセージが流れる。
『休み、休みか……。休みって何をしたらいいんじゃろうなあ……?』
ヤクモの言葉に悲しみを覚えつつ、俺は後輩の田口オススメ漫画セレクションを頭の中で思い出しながらツクモガミの検索を始めたのだった。
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