135話 行列には並ばない

 薬草採集を終え、俺は冒険者ギルドに戻ってきた。中に入ってまずは受付カウンターの列を眺める。朝に来た時と変わらずアレサの列が一番長く、俺がよく利用する受付嬢が一番短い。


 数日前からナッシュが依頼で遠出をしており、彼氏がいない間に自分との仲を進展させようと思っている連中の影響で、いつも以上にアレサの列が伸びているのだ。


 がっつく男もアレだが、ワンチャンあるんじゃないかと気を持たせるアレサも恐ろしい。冒険者ギルドは男も女も肉食系だ。


 俺はそういう世界から隔絶された、いつもの列に並び受付嬢に薬草を手渡す。受付嬢は薬草のチェックをし、一旦カウンターの奥の部屋に入る。そして少し待つと報酬の貨幣をトレイに載せて戻ってきた。


「品質、量ともに問題ないっす。で、こちらが報酬。ご確認を」


 差し出されたのは6500R、間違いない。俺がそれを懐にしまうと、受付嬢が俺にスッと手のひらを向けた。


「では、ギルドタグの返却をお願いします」


「返却? ってことはもしかして?」


 期待を込めて受付嬢を促す。受付嬢はいつもどおりそっけなく……いや、口元を少しだけ緩めながら答えた。


「はい、イズミさんはG級からF級に昇級しました。おめでとうございます」


「おおっ!」


 俺は思わずガッツポーズ。すると小さくパチパチと拍手の音が聞こえたのでそちらに顔を向けると、接客の合間にアレサが俺に手を合わせて微笑んでいた。


 いやいや、どーもどーも。祝ってくれるのはうれしい。でもアレサの行列から大量の嫉妬の視線が向けられているので、ほどほどでお願いね。


 そうしてやたら注目を浴びる中、俺は受付嬢からF級のギルドタグを貰って注意事項を聞いた。


 F級に上がって注目すべき点は、なんといっても討伐依頼を受けられることだろう。G級のうちは、初心者なんだから雑用でもやっとけとばかりに討伐依頼は受けられなかったからな。


 討伐関連の依頼書には◯級推奨と書かれてはいるのだが、それはあくまで魔物の強さによる格付けでしかない。別にF級が狩ってもいいのだ。依頼人からすれば納品さえしてもらえれば誰が持ってきてもいいんだからな。


 なお、護衛任務なんかは依頼人が指定した冒険者ランク以上でなければ受けられない。


 とはいえG級なんかは受付の時点でねられるのだが、ルーニーは薬草採集を急ぐあまり、その場にいたドルフに指名依頼をしてゴリ押しした形だ。控えめに言って頭がおかしい。


 とにかくようやく討伐依頼が受けられるようになった。買取カウンターで売るよりも高値になるので、これで効率よく現金リンが集められる下地ができたことになる。明日以降が楽しみだね。


 俺は新しいギルドタグを手で触り感触を確かめつつ、魔物買取カウンターへと向かった。そこでバジに貰ったクロールバードの解体を依頼する。


『む? イズミよ。売るのではなく、解体だけなのか?』


 買取カウンター近くの椅子に座った途端にヤクモからメッセージが届く。最近は食費でゴールドも減る一方だったし、わからんでもないのだが――


『この魔物は食えるらしいし、昇級祝いを兼ねて一度食ってみようと思ってな』


『ほほう、魔物肉は美味いからのう。それもまた一興じゃな! 焼肉が楽しみなのじゃ』


『おいおい、焼くとは限らないぞ?』


『なぬっ!? ではどうするのじゃ?』


『それは後のお楽しみってことで』


『なんと、期待が高まるのう……!』


 早くもよだれを垂らし始めたヤクモを横目に、俺は椅子にゆったりもたれた。ガディムのおっさんによると、今は手が空いていてすぐに解体してくれるそうなので少し待つことにしたのだ。


 ちなみに肉しか要らないというと、買取できるクチバシの部分と差し引いて解体費用をタダにしてくれた。結構どんぶり勘定だよな。



 そうして解体が終わり、ガディムのおっさんからクロールバードの肉を受け取っていると、ドカドカと足音を鳴らしながら勢いよく冒険者ギルドに入ってきた連中がいた。


 おっさん三人組――『鋼の意志』の面々だ。バジたちは傷だらけではあるが、深い傷はなさそうに見える。


 三人は入り口で誰かを探すように首を動かし、短剣男が買取カウンターの近くにいる俺を見て指をさす。そして三人は頷き合うと、俺に向かってなんとも暑苦しい笑顔で親指をグッと立てたのだった。

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