134話 鋼の意志

 傷だらけのおっさん三人組の治療が終わった。


 立ち上がった三人は屈伸やら前屈やらを繰り返し、身体の調子を確かめている。俺はその様子を地面に座り込みながら眺めていた。さすがに疲れたからな……MPカツカツだよ。


「信じられん、ぜんぜん痛くねえ。完全に治ってやがる……」


 短剣男がさっきまで深い傷のあった肩の辺りを擦りながらつぶやく。それを見てバジが短剣男の背中をバンッと叩いた。


「ほらな? イズミならやるって言ったろ? 俺にはわかってたんだよ!」


「ゲホッ、痛えってのバカぢから! ……なあ、イズミ。お前、そんな治癒の腕を持っているのに、どうして治癒師じゃなくて従魔使いを名乗ってるんだ?」


「あーそれは――」


「んなこともわからねえのか?」


 とりあえず適当にはぐらかそうと口を開いたところで、バジが割って入った。


「そりゃあアレだろ。この従魔……ヤクモっていったよな? コイツが、イズミの治癒の腕なんかがかすむくらい、恐ろしく強えーんだよ。普段はおとなしいのに、イザというときは――ってヤツだ。俺が小せえ頃に飼っていた犬もそうだったから……わかるっ!」


 バジが拳を握りながら力説する。すると短剣男と長剣男がゴクリとツバを飲み込みヤクモを見つめた。


「なるほど、そういうことか……!」


 なんだか誤解が生じているような気がするけど、まあ……別にそれでいいか。


 ちなみに当のヤクモは、ようやくグロシーンが終わったものの精神的ダメージがまだ残っているようで、耳を伏せながら地面にぺたんと座ったまま微動だにしない。たぶん話も聞こえていなさそうだ。


「よしっ!」


 不意にバジが気合の入った声を上げ、両手をパンと叩いた。そして腰につけた魔道袋を探り、中から愛用の斧と血抜きが終わっている大きな鳥を取り出す。


「イズミ、これは今日狩ったクロールバードだ。治療の礼に受け取ってくれ。足りねえ分は今度また改めてな」


「ああ、礼なんて気にしなくてもいいですよ、前に助けてもらいましたし。でもクロールバードはいただきますね」


 せっかくの厚意だ、もらっておこう。俺は座ったままでクロールバードを受け取る。


 バジは俺にニカっと笑ってみせると、取り出した斧を持って俺から離れた。そして何度か斧の素振りをして納得したように頷くと、斧を肩に担いで仲間の二人に大声で呼びかけた。


「よし、ハンマーエイプを狩りに戻るぞ!」


「は?」


 俺と短剣男、長剣男の声がハモった。短剣男が困惑気味に顔をこわばらせる。


「ちょっ、バジ。なに言ってんだよ! せっかく助かったんだ。ここは一旦戻って、作戦を練り直してだな……!?」


「バッカ野郎! そっちこそなに言ってやがる。ヤツは手負い、こっちは全快。どっちが有利だ? こっちだろ。やるなら今しかねえ!」


「た、たしかにそれも一理あるかもしれねえが、手負いといっても大した傷じゃなかったろ……」


 バジの気迫に押されるように、短剣男が一歩後ずさる。


「無傷じゃねえなら俺たちの有利は変わらねえ。それにせっかく巣を見つけたんだ。ちんたらしてたらまた逃げられるぞ!」


 バジが再び吠えると、ここまで黙って話を聞いていた長剣男が短剣男の肩を叩いた。


「こうなったらバジは止まんねえよ。行くしかねえって」


「……それもそうだな。よし、行くか!」


「おうっ、それでこそ『鋼の意志』の団員だ! それじゃあイズミ、また今度な!」


 バジは背中を向けて山の方へと駆け出し、仲間の二人がそれに慌てて付いていった。ちなみに『鋼の意志』というのはこの三人組のパーティ名である。


「はあ、大丈夫なのかねえ」


 三人の姿が見えなくなり、俺は座ったままつぶやく。するとこれまでだんまりだったヤクモが口を開く。


「どうじゃろうなあ……。まあこれ以上はおせっかいじゃろうて。それよりもイズミ、ワシの背中をさすってくれんか? まだ血の気が引いたような感じがして、体がぷるぷるするんじゃ」


「はいはい」


 ヤクモの背中をさすりながら考える。そういえばバジには【蛮勇】というスキルがあった。つまりはこういうことなんだろうな。取らなくてよかった。


 そうしてしばらくヤクモの背中をさすり、俺とヤクモの体調がようやく戻った後、俺はゆっくりと残りの薬草を採集して冒険者ギルドへと戻った。

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