133話 骨折治療
「痛っ……と、それじゃあ俺たちは町に戻るわ。お前もあんまり山のふもとには近づくなよ?」
そう言い残し、ふらつきながら足を進めようとする三人を俺は呼び止めた。
「あの、よかったら俺が治しましょうか?」
「……あん? もしかしてお前、ヒールが使えるのか?」
「ええ、まあ……」
俺の返事に三人は顔を見合わせると、表情を
「マジか! そういうことなら是非とも頼む。少しでも治療してもらえると、その分治療費が浮くからな!」
「わかりました。それじゃあやりますね。まずはバジさんからで」
俺が服に血が付かないように袖をまくっていると、バジが折れてない方の腕をぐっと差し出す。
「アイツの爪でやられて痛えのなんの。これが治るだけでも御の字ってやつだぜ」
たしかに深い切り傷だが……これが一番の深手じゃないだろう。俺は逆に曲がっている右腕を指差す。
「こっち、先に治しましょ?」
俺の言葉にバジたちはぽかんと口を開け、それから両サイドの二人が困ったように眉を下げながら俺に話しかけた。
「いやいや、折れてるんだぜ? これはすぐには治らねえし、今は簡単な傷をだな……」
「ああ、イズミの腕を
さっきから話を聞いて思っていたのだが、やはり骨折はヒールを使っても一度では治さないか治せない? みたいだ。
まあ治療を仕事にしている人なら一人の患者の治療で魔力を使い切るわけにもいかないし、そもそもどの程度のヒールが使えるのかにもよるのかもしれない。
ちなみに俺のスキルの基準でいうなら、【ヒール】は酷い怪我じゃなければ時間をかければなんとかなる。そして【ヒール+1】までいくと一気に効果が上がり、部位欠損まで治せる手応えがある。
格付けをすると通常が熟練級、+1が達人級、+2が伝説級だと以前ヤクモが説明していた。
さて、どうやって説得しようかと考えていると、それまで黙っていたバジが口を開く。
「イズミ、やれるんだな?」
「あっ、はい。やれます」
「おしっ! やってみせろ!」
思わず反射的に俺が答えると、バジはその場にどかんと座り込み、俺に折れた方の腕を突き出した。変なところから折れて、ぶらぶらと揺れている。
「フニャァァァァン……」
それを見たヤクモがか細い声を上げながら、俺の背後へと回った。まあ気持ちはわかるぜ。
「おいおい、いいのかバジ?」
短剣男が心配そうに眉を寄せるが、バジの決意は変わらないようだ。ぐっと胸を張ると俺の目を見据えた。
「こういう妙な自信を持ってる野郎は、実際にやれちまうもんなんだよ。俺もそうだったから……わかるっ!」
それ口癖なのかな。そんなバジの言葉に二人は肩をすくめる。
「……まあ、バジがいいってのなら、しゃーねえな。俺らもイズミ、お前を信じることにするよ」
「頼むぜ。ウチのリーダーなんだからな」
二人がニヤリと笑いながら俺の肩をポンと叩く。おおう、なんだかプレッシャーが。これは絶対に失敗できないな、慎重に進めることにしよう。
「ええと、いちおう折れた腕を真っ直ぐに伸ばしてもらえますか?」
ヒールの治療でどうなるのかよく知らないけど、逆のまま骨がくっついたら怖い。
「わかった。……バジ、いくぞ?」
「おう!」
長剣男(こっちも名前は知らない)が、バジの腕を掴むと真っ直ぐになるように強く引っ張った。
「ぐううう……!」
歯を食いしばって痛みに耐えるバジ。よし、今だ。
「ヒールッ!」
俺の手から柔らかな光があふれる。
ヒールも慣れてきたもので、以前はヒールとヒール+1でホ◯ミを使うかベ◯マを使うかの二択だったものが、魔力を込める量で強弱をつけられるようになってきた。
三人まとめて治療するつもりだし、ここはなるべく節約していこう。
ヒールの光がバジの腕を包み込む。骨と骨が自然な形で合わさり、魔力がその隙間を埋めていくのを直感的に感じる。
しばらくすると顔をしかめていたバジがきょとんと不思議そうな顔をして、その後、驚愕に目を見開いた。
「なっ……! もう痛くねえ……!?」
どうやら無事、治療は成功したようだ。だがそんなバジの言葉に短剣男が呆れたように頭をかく。
「なに言ってるんだ、お前。骨折ってのは何度も治療を重ねてだな……」
「マジだっての。ほら!」
バジが腕をぐるぐる回して回復をアピールすると、男二人が唖然とした表情を浮かべて声を漏らす。
「マジか……」
「マジっす。それじゃあ他の部位も治していきますね。三人並んで、地面に寝転んでもらうと俺もやりやすいです」
「おっ、おう……」
三人はおとなしく俺に従い、声を揃えて横になった。さて、残りの治療を始めるとしますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます