130話 リザルト

 冒険者ギルドに戻った俺はさっそくカウンターに並び、ダルそうな受付嬢にリク草を渡す。


 15束で3000Rという依頼だったが、余剰分も同じレートで買い取ってくれた。どうやら依頼書にもそのように記載されていたらしい。


 難しい言葉が読めないのでスルーしていたと正直に答えたところ、


「読めないところは読んであげるんで、面倒臭がらずに言ってください。そういうのが巡り巡って、余計にこっちの仕事が増えるんすから。はぁ……」


 と、猫背のまま深くため息を吐かれてしまった。


 その後は買取カウンターに向かい、薬草採集の副産物というべき芋虫を売ってみることにしたのだが、大して需要のない魔物の買取は行っていないとのことで、買取を拒否されてしまった。


 しかしガディムのおっさんが言うには、毒はないし焼いたらそれなりにうまいらしい。捨てるくらいなら食えばどうだと勧められた。


 たしかに芋虫を食べる人は前の世界にもいたが……もちろん俺は食うつもりはない。いちおうヤクモにも聞いてみたけれど、すごく嫌な顔を浮かべながら後ずさっていったよ。


 結局、芋虫の代わりに、昨日は途中でストップをかけられたホーンラビットを数匹売ることにした。こっちの在庫はまだまだあるので、少しずつ売っていきたいね。


 ホーンラビット分は抜いたとしても、今日の稼ぎは6000R。この調子でひと月で20日くらい働いたとして12万R。


 俺にはツクモガミがあるので例外になるが、普通の一人暮らしだと安い宿に泊まればなんとか生活していけるか? という金額だと思う。これがG級の生活水準のようだ。


 ひとまずは初日のクエスト成功を喜びつつ、この日の夜は缶ビールを三本開けた。



 そして翌日。この日も冒険者ギルドで薬草採集の依頼がないか掲示板を見ていると、いつもの受付嬢から声をかけられた。


「――え? 俺に指名依頼?」


「そっす。昨日と同じ……ルーニーさんから。イズミさんが拒否した場合は、一般依頼に回すように言われてるんですけど、どうします?」


 どうやらルーニーは俺が薬草採集の依頼を受けたのを知って、次の依頼を俺の指名依頼にしてくれたようだ。


 あやしい薬を受け取らない俺に、別の形で感謝を伝えてくれているのかもしれない。これは正直かなりありがたいことだ。


 もちろん俺は了承し、この日も薬草採集しながら芋虫をしばいて回った。



 ◇◇◇



 それからというもの、ルーニーによる薬草採集の指名依頼は毎日続いた。


 ルーニーは朝イチで冒険者ギルドにやってきては新しい依頼を申し込み、前日に俺が採った薬草を回収しているようで一度も会うことはなかったが、今度菓子折りでも持ってルーニーの薬師局に行こうかなと思う。



 そしてそのまま何事もなく薬草採集を続け一週間ほど経った頃、いつかは起こるんじゃないかなー? なんて思っていた事件がついに起きてしまった。


 その日も薬草採集の依頼を終え、受付嬢からそろそろ昇格も近いですよと言われてウキウキしながらの帰り道。宿に向かって歩いていると背後から声をかけられたのだ。


「おう、新入りィ。……ちょっと待てよ」


 後ろを振り向くと、そこにいたのは冒険者ギルドでよく見かけるチンピラの兄ちゃん……たしかG級冒険者だったはず。


 G級のくせにいつもギルドのテーブルでダベっているのを見かけるし、仕事しなくて大丈夫なのかなと疑問に思ったものだ。


 チンピラはニヤニヤと口の端を吊り上げながら、俺に話しかけてきた。


「お前、最近景気がいいみたいじゃねーか。そこでよ、俺からお前に折り入って相談したいことがあるんだが、ちょっと向こうでお話ししようぜ?」


 薄暗い路地の方を親指でくいくいと示すチンピラ。気がつけば俺を囲うようにさらに三人のチンピラが近づいてきている。


 まあ何人かが俺についてきているのは空間感知でわかってはいたけれど、とにかく人が多い町中だ。偶然かと思っていたんだが、どうやらそうではなかったようだ。


『なあイズミ、お前になんの相談じゃろうな? 見たことはあるが話すのは初めてじゃろ? さすがに人にものを相談をする態度ではないと思うのじゃが』


 ヤクモが首を傾げながら俺を見上げる。


『違うっての。これは俺を恐喝しにきたんだよ。俺をいい金づるだと思ったんだろうよ』


『んあ? 見たところ五体満足じゃし、ギルドに所属しているなら働き口はあるじゃろ。どうしてそんなことをするのじゃ?』


『世の中には働いたら負けって人種がいるんだよ』


『な、なんじゃと……なんと嘆かわしい。労働の喜びを知らぬとは、とんだ愚か者じゃのう……』


 可哀想なものを見る目でチンピラを見つめるヤクモ。まあ俺もどっちかといえば無理には働きたくはない方なんだが……。とはいえ、もちろんコイツらのようなことをするつもりはないけど。


「おい、黙ってないでなんとか言えばどうだ?」


 少しイラついた声を上げるチンピラと、じりじりと俺に近づくその仲間。


「わかった。こっちだな?」


 俺は一言返すと、チンピラの指し示す路地の中へと歩を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る