129話 薬草採集

 薬草採集をしながら近づいてきた連中を【空間感知】で警戒していると、やがてその姿が俺の視界にも入ってきた。


 大きな斧を肩に担いだマッチョ男と短剣を握っている細男、剣を携えた普通男。歳は全員三十代くらいの三人組だ。


 なにやら雑談をしながら、けもの道をこちらに向かって歩いている。そして細男が俺に気づいて指を差した。


 俺は邪魔にならないよう、けもの道の端に体を寄せる。すると近づいてきた三人組の一人、斧マッチョがニヤニヤと笑いながら俺に話しかけてきた。


「よう、新入り。薬草採りか?」


「あっ、ハイ」


 斧マッチョはスウッと息を吸い込むと――


「そうか、頑張れよガハハ!」


 バンと俺の肩を叩き、そのまま通り過ぎていった。


「俺にもあんな頃があったわー」「ウソつけ、薬草採りなんてガラじゃねーだろ」「本当だっての」みたいなことを話しながら、やがて俺の視界から消えていく三人組。どうやら連中はこの森のさらに奥の方に用事があるようだ。


「ふいー。絡まれるんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ……」


「見てくれが荒っぽいなら仕方あるまい。それよりも、せっかくじゃからスキルを見ておくといい」


「ああ、そうだな」


 俺はツクモガミで斧おっさんのスキルをチェックした。持っていたのは――


 身体スキルに【斧術】、特殊スキルには【夜目】【剛力】、それから【蛮勇】。


【斧術】はまんまだろうし、【夜目】【剛力】は持っている。【蛮勇】ってなんだろうな? ポチッと。


《恐怖を感じにくくなるスキルじゃな。人によっては悪くないスキルなのかもしれんが、考えなしに突っ込まれても困るのう。取らないほうがいいと思うぞい。スキルポイント10を使用します。よろしいですか? YES/NO》


 たしかに猪突猛進思考になっても困る。これはスルーで決まりだな。結局、俺は10☆で【斧術】だけを覚えたのだった。


 ……そういえば剣はツクモガミに売ってなかったけど、斧なら売っているのか? というか、一度どこかで見たな……ああ、あそこかな?


 俺はさっそくツクモガミを起動させると、【アウトドアおじさん】のアカウントをチェック。


「……あった」


 アウトドアおじさんの出品リストには、やはり手斧があった。その商品説明欄には『太い薪を割るのに便利ですよ^^』と書かれている。


 たしかに薪が太いと火が付きにくかったりするからな。先日までの旅でも焚き火の際は、ナッシュが太い薪を剣で無理やり叩き切ったりしていた。


 手斧は7500Gとやや高い値段だが、安心と信頼のブランド【アウトドアおじさん】なので問題ない。ポチッと購入すると、今回も入っていた手作り説明書を読む。


『薪を割るときは地面に気を付けてください。石があったりすると刃が欠けちゃいますし、それから芝生の上でもやらないようにしてくださいね。芝生がかわいそうですから^^;余談ですが、私は薪を割る姿がかっこいいと彼女に言われたことがあります。まあもうフラれちゃったんですけど^^;』


 ためになるワンポイントアドバイスと、いつもの自分語りが書かれていた。相変わらずフラれた彼女のことが忘れられないようだが、がんばれアウトドアおじさん。


 今回もアウトドアおじさんの幸せを異世界から祈った俺は、さっそく手斧を手に取ると、ぶんぶんと左右に振り回してみた。


 ……よし、なんというか、馴染む。しっかり【斧術】スキルは発動しているようだ。だがそんな俺の姿をヤクモが訝しげに見上げる。


「そんな物を買ってどうするんじゃ? さっきの男が持っていたような柄の長い斧ならともかく、その短さじゃと魔物との戦闘では危険も大きいじゃろ?」


 この手斧は取手の長さが50センチほど。たしかにヤクモの言う通り、戦闘には向いてないだろうが――


「そもそも戦闘に使うつもりはないからな」


 俺はけもの道から外れた藪の中に足を踏み入れ、ブンと手斧を振るった。邪魔なつたや長い枝がスキルも相まってスッパスパと切れていく。


「これがあれば、足を踏み入れにくい場所にある薬草も探せるだろ?」


「はー、なるほどのー。斧は戦い以外でも使えるもんなのじゃな」


「そういうことだ。それじゃあこの藪に入って行くから、一応さっきの芋虫が近くにいないか警戒してくれるか?」


「うむ、任されたのじゃ!」


 各種スキルもあるし大丈夫だとは思うが、ヤクモも暇そうだからな。


 思ったとおり仕事を任されてウキウキのヤクモと共に、俺は手斧を振るいながら藪の中を進んでいく。やはり思ったとおり、こっちの方があまり他の人の手が入ってないようで薬草が見つかりやすい。


 そうしてせっせと薬草を採集。昼過ぎにはリク草が三十束ほど集まった。十五束以上は買い取ってくれるのかはわからないが、余るようならストレージにいれておけばいいだろう。


 夢中で草を刈っていたので食事も忘れていた俺は、森の中で人化したヤクモと共にリンゴをかじりながら帰宅の途についたのだった。

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