127話 初クエスト

 冒険者ギルドに到着した俺は、真っ先に掲示板で依頼書をチェックすることにした。


 俺のとりあえずの目標は冒険者クラスG級を卒業することだ。G級は受けられる依頼の幅が狭く、その上すこぶる評判が悪い。


 昇級するためには依頼をこなして実績を積む必要がある。G級は十回ほど依頼を成功させれば昇級できるらしい。


 結構簡単なように思えるが、それでもG級にくすぶっているような連中ともなると、そりゃあ世間の目も厳しくなるわなとも思う。


 ギルド内の壁に設置された掲示板にビタビタに貼られた依頼書を眺めていると、背中からめっちゃビンビンと人の視線を感じた。相変わらず見慣れぬ人間を観察するのが好きな方々らしい。それを無視しながら依頼書を手当り次第調べるが――


『G級が受けられる魔物討伐の依頼がないな?』


『うむ、そうじゃのう。外壁の補修や、荷物運び、ドブさらい、人足のような仕事ばっかりじゃなあ』


 うむむ……。魔物を倒して昇級できれば一石二鳥だと思ったんだが、考えが甘かったのだろうか。


 しかし諦めるのはまだ早い。たまたま貼られていないだけかもしれないので、いちおう受付嬢に聞いてみることにしよう。俺は昨日と同じ、愛想の悪い受付嬢の列に並ぶことにした。


 ちなみに今日はアレサが出勤しており、アレサのカウンターには長蛇の列ができていた。アレサが俺に気づき微笑みながら軽く手を振ってくれたんだが、行列に並んでいる野郎どもにめっちゃ睨まれた。人気あるんだなあアレサ。


 嫉妬の視線を浴びながら順番を待つ。相変わらずこちらの列は短く接客も簡単に済ますので、すぐに俺の順番が回ってきた。さっそくG級でも受けられる魔物退治の依頼がないかを聞いてみた。


「……ハァ、そんなのあるわけないじゃないすか。そりゃ成人が武器を振り回せば倒せる魔物だっていますけど、危険がないわけじゃないですし。ギルドとしても、せっかくの人材を減らしたいわけではないんすよ。誰もが最初に加入する階級であるG級は、地味な仕事をしてもらいながら冒険者の仕組みに慣れてもらう……そのような観点で仕事を振り分けてるんで」


 受付嬢は呆れながらも、珍しく長々と説明してくれた。そしてカウンターの下をゴソゴソすると、一枚の依頼書を俺に差し出す。


「どーしても魔物を狩りたいなら……これ、ついさっききた薬草採集の依頼っす。これのついでに魔物を狩ってきたらどうすか? 魔物討伐の依頼が受けられないことには変わりないっすけど」


「なんで魔物討伐は危険と言ってるのに、そういう抜け穴っぽいやり方を俺に教えるの?」


「……じゃ、別にいいです。次の方――」


「ああ待って! 単純に理由が知りたいだけだから!」


 俺の後ろに呼びかけようとした受付嬢を慌てて止める。受付嬢は面倒くさそうに俺をじいっと見ると、口を開いた。


「……イズミさん、あなたが昨日持ってきたホーンラビットは職員の間でちょっとした話題になってるんすよ。ほとんどが矢による急所の一撃のみ――よっぽどの手練でないとそうはならないって。それに今日出勤してきたアレサさんがあなたのことをベタ褒めしてましたからね」


 なるほど、そういうことか。職員の覚えが良いのはありがたいね。アレサにも感謝しておこう。


「で、どうするんですか?」


 受付嬢が依頼書をピラピラと振りながら尋ねる。


「それじゃあソレ、受けます」


「……っした。じゃ、ここにサインを」


 俺は差し出された依頼書を手に取り、ペンを握る。依頼者の名前がルーニーなのが気がかりだが、そのままの勢いで署名欄に名前を書いてやった。こうして俺は、冒険者としての第一歩を踏み出したのだった――


「……イズミさん、これじゃあ「イジミ」すよ?」


「あっ、書き直します……」


 今度こそ踏み出したのだった。

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