124話 円滑なコミュニケーション
「マジサイテー」
そう言い放ったマリナは、俺をゴミを見るような目で見下ろしながら扉を閉めて出ていった。そしてヤクモがじっとりとした目で俺を見上げる。
『イズミや……さすがにアレはいかんじゃろー。普通、あの年頃の娘に聞くか?』
『いやあ、どこでも聞いてくれって言ったし、なんか見た目ギャルっぽかったから、あーねーってカンジであっさり教えてくれるかなと……』
『まあ奔放そうな見た目をしとったのは間違いないが、ほんとアホじゃのー、アホアホじゃ』
『我ながらそう思うぜ』
俺が素直にそう言うと、ヤクモはため息を吐き出しながらメッセージを送ってきた。
『……まっ、やってしもたもんは仕方ない。じゃがなー、しばらくは世話になるんじゃから、ほどほどの関係は保つんじゃぞ。円滑なコミュニケーションは、生活や仕事の質の向上に大きく寄与するのじゃ』
お前それがわかっていながら、なぜワンオペでツクモガミを……と思わないでもなかったが、まあ今回は俺が全面的に悪いし説教は甘んじて受け入れよう。
『ああ、肝に銘じておくよ。とりあえず、これ以上は嫌われないように気をつけるわ』
『うむ。わかったのなら、お前のやらかしはもうええわい。それよりも今日から久々にベッドで就寝なのが、ワシうれしい』
なんてこともないようにヤクモが話題を変える。まあ俺もぐだぐだと話したいことでもないし、さっさと切り替えよう。
ヤクモがベッドによじ登ろうと、前脚をかけたところで呼び止める。
「ちょい待てヤクモ。ベッドに乗る前にクリーンやっとくか」
俺はヤクモと自分に【クリーン】の魔法をかけた。これでいかなる時でも清潔安心だ。
この魔法、どの辺でゴミやらばい菌やらを判別しているのか気になって仕方なかったりするのだが、とりあえずマリナにゴミを見るような目で見られた俺が浄化されることはなかった。
それにしてもクリーンは便利でいいんだが、物足りないというか味気ないというか。これはやっぱりそのうち……。
『ん? どうしたのじゃ、イズミ』
俺が物思いにふけっていると、ベッドの上でゴロゴロと転がっているヤクモが声をかけてきた。
『いや、なんでもない。それよりも――』
俺はツクモガミを起動させる。
『お、メシか? メシなのか?』
『晩飯にはまだ早いだろ。まずはさっきの酔っぱらいのスキルを覚えておこうと思ってな』
『ああ、そうじゃったな』
あの酔っぱらいはスキルを持っていた。しかし町中でビクンビクンとしている姿を晒すのも抵抗があったので、部屋に入るまではスキルを習得せずにキープしていたのだ。
酔っぱらいの持っていたスキルは【剛力】。ヤクモに聞いたところによると、名前のイメージのまんま、力が増大するスキルのようだった。
「もしあいつの攻撃が当たっていたら、俺もヤバかったのかねえ……」
そんなことをボヤきながら【剛力】をポチっと押す。
《んー。スキルが生えてきたところで停滞しとったようじゃから、さほど脅威ではあるまい。お前が代わりに有効活用してやるといいのじゃ。スキルポイント20を使用します。よろしいですか? YES/NO》
もちろんYESをポチっと押す。身体に衝撃が走り、【剛力】のスキルの習得を実感する。
ちなみにあの酔っぱらいは【泥酔】というスキルも持っていた。少ないアルコールで酔いやすくなるスキルらしい。場合によっちゃあ安上がりでいいスキルな気もするが、もちろんスルーだ。
「さてと次は――」
次はロックウルフルーラーの売却だ。ナッシュにもう一度見せてくれとか言われたらマズいので、町に入るまでは現物を持っていたのだが、もう大丈夫だろう。ポチッと売却する。
【首と右前脚がないロックウルフルーラー 1匹 取引完了→150000G】
15万Gは過去最高額だ。これはかなり助かる。
ちなみにホーンラビットとは違い、ロックウルフの肉は固く筋張っていて魔物といえども美味くはないらしい。上位種であろうが特徴自体はさほど変わらないということで全身を売っぱらうことにした。
さらには普通のロックウルフも半分ほど売り払う。残りはそのうちギルドで売っぱらって
さて、これでようやく一区切りだ。今の俺のステータスだが――
習得スキル一覧
《身体スキル》
【弓術】【イーグルショット】【棒術】【剣術】
《精神スキル》
【ヒール+1】【キュア】【クリーン】【アクア】
《特殊スキル》
【剛力】【回避】【縄抜け】【夜目】【壁抜け+1】【粘り腰】【指圧】【遠目】【解体】【料理】【裁縫】【掃除】【洗濯】【薬師】【聴覚強化】【危険感知】【気配感知】【空間感知】【MP回復量上昇+1】
ゴールドは一気に40万G近くまで貯まった。だがスキルポイントは78☆と少し物足りない。覚えたいスキルが現れたときにスキルポイントが足りないのはマズいと思う。
かと言ってスキルポイントを貯めるために無駄使いするつもりもないんだが――今日は特別だ。
『明日からは冒険者ギルドで活動するわけだし、今日は盛大に食って英気を養うことにするか?』
『おおっ、よいではないか! それで、それで? 何を食うのじゃ!?』
ヤクモがベッドの上からフンフンと鼻息荒く近づいてきた。
『そうだな……前にお流れになったアレとかはどうだ?』
『しょ、しょれは……もしかして……?』
ろれつもあやしくなってきたヤクモがゴクリとつばを飲み込む。
『ああ、激!カップ麺大会だ』
説明しよう。激!カップ麺大会とは、普段は世界で一番売れているカップラーメンしか食わないヤクモに、その他の様々なジャンルのカップ麺を食わせつつ、俺も一緒にむさぼるように食う大会である。
『ということは、以前言うとったカップウンドがついに食べられるのか?』
『カップうどん、な?』
『おう、それじゃ! うっひょおおーーーーーー! イズミ! いつか再び開催してくれることをワシは心待ちにしとったぞ!』
ベッドの上でバインバインと飛び跳ねるヤクモ。さすがにこれだけ騒ぐと下の階にも響きそうだ。俺はマリナからクレームがくるまえにヤクモを鎮めると、ツクモガミでカップ麺の検索を始めた。
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