119話 ライデルの町

 俺はついにライデルの町に到着した。


 俺が馬車の牢屋から降りたところを見ていたらしい門番から質問が矢継ぎ早に飛んできたが、信用あるC級冒険者であるナッシュが取りなしてくれたことで特に問題は起きなかった。


 以前言っていたとおりアレサが俺の通行料を支払ってくれた。その横で不服そうにアレサを睨むルーニーに呆れつつ、俺はいよいよ門をくぐり抜け――ライデルの町の中へと入った。


 まず目の前に広がったのは、しっかり整備された石畳で作られた大通り。そしてまっすぐ伸びたその道を挟むように、両側には石造りの店舗や簡易的な屋台が立ち並んでいた。


 いくつかの店の前には店員が立ち、町にやってきた人目当てなのだろう、威勢のいい客寄せの声があちらこちらから聞こえている。のどかだったレクタ村とは大違いだ。


 俺がおのぼりさん丸出しで辺りをキョロキョロと見回していると、頭上から声がかかった。


「さて、それじゃあ冒険者ギルドまで送っていくよ」


 声をかけたのは御者台に座るナッシュだ。ちなみに馬車と併走している俺とヤクモはやや早歩きである。


 本当ならぷらぷらと観光なんかもしてみたいところだが、まずは冒険者ギルドに行く必要がある。


 まずは冒険者になり、ストレージに入っている魔物を売って、ある程度の現金を確保しないといけないからだ。村の診療所で稼いだお金だけだと、宿代だけですぐに尽きてしまう。


 それともう一つ、従魔……ということにしているヤクモは冒険者ギルドで従魔登録をしなくてはいけないらしい。首か足にギルドから指定されたリングを付ける義務があるそうだ。


 まあ魔物が町に入り込むんだからな。責任の所在を明らかにする必要はあるのはわかる。ヤクモもしぶしぶだったけど了承した。


 そういうわけで俺は冒険者ギルドに案内してもらうのだが、そこでナッシュたちとはお別れということになる。


 ナッシュたちはこのままドルフを留置所まで連行し、それから事情聴取やら馬車の返却やら、色々とやることが山積みだそうだ。本当はギルドの中までついてきて欲しかったけど、アテが外れて残念。


 そうしてしばらく歩くと、ナッシュが前方を指差した。


「イズミ、あのデカい看板のある建物が見えるか? あそこが冒険者ギルドだよ」


 ナッシュの指し示す先には、剣と杖が交差するような意匠を施した木製の看板があった。いかにも冒険者ギルドって感じの看板だ。俺みたいに文字があまり読めない者でも大変わかりやすい。


 俺は改めて御者台の三人に頭を下げる。


「それじゃあここまでで大丈夫です。みなさん、いろいろとありがとうございました」


「いや、俺たちの方こそ助かった。これからも冒険者ギルドで出会うことがあるだろう。困ったことがあったらいつでも頼ってくれ」


「私も普段は冒険者ギルドで受付嬢をしているから、わからないことがあったら気軽に聞きにきてね」


 ナッシュとアレサは冒険者ギルドと関わり合いのある者だ。これからも会うことがあるだろう。そして関わらないであろうルーニーが声を上げる。


「イズミ君、また会おう! 私の薬師局のほうにも一度顔を見せてくれたまえ! そこでお礼の薬を――」


「結構です」


「むううううううっ!」


 ルーニーがふくれっ面を真っ赤にさせる。まあ、薬を貰うことはないだろうが、顔を見にいくのはいいかもな。別にルーニーが嫌いなわけじゃないし、胸は大きいしね。


 分かれ道にさしかかり、ナッシュが手綱を動かした。


「イズミなら大丈夫だと思うが、冒険者ギルドじゃあナメられないようにビシッとするんだぞ? それじゃあまたな」


 そう言って馬車は左に曲がっていった。なんともあっさりとした別れだが、まあ同じ町に住んでるんだし、こんなもんだろう。


「よし、それじゃあ行くか」


 俺の呟きにヤクモが反応する。


『うむ! あやつも言っとったが、ナメられんようにするのじゃぞ! ワシが以前調べた頃は冒険者ギルドにいる者なんてのは荒くれ者ばかりじゃったし、それは今も変わっておらんじゃろうからな!』


 まあ腕っぷしがないと上に昇っていけない冒険者ギルドで、イケメンで心もハンサムなナッシュは珍しいような気はする。だからといって、さすがにその他全員が荒くれ者ってわけではないとは思うんだけどな。


 俺はにぎやかな喧騒が聞こえる冒険者ギルドに足を進めると、開きっぱなしになっている入り口を通った。


 ギルドの店内は大きなホールのようになっており、壁にはなにやら依頼書のような物が張られ、奥にはカウンターがあり、職員が受付をしている。職員はイケメンや美女揃いで顔面偏差値は高い。


 反して店内のいたるところに置かれたテーブルを囲んでくだを巻いている連中は、いかにも腕っぷし一本で生きてきましたというマッチョマンや、歴戦の勇士っぽい傷だらけでひげの生やしたダンディおじさん。俯きがちで何を考えているのかわからない小男、その辺にいそうな普通の人と、実にバラエティ豊かだ。


 その方々の視線が俺に集中しているのを肌で感じる。


「なんだ見ねえヤツだな」「ひょろっちいから依頼者だろ」「なんだあの狐。ペットか?」「ペットを連れてお散歩とはいい身分だな」


 などなど、【聴覚強化】を使うまでもなく俺の耳に聞こえてくる声。


 俺が依頼者なら、こんなこと言ってくる連中には依頼したくないもんだけど、あまり客商売には向いてなさそうな方々のようだ。というか荒くれ者だらけじゃん。


 まあ気にしても仕方ない。俺は奥に見えるカウンターに向かって足を進めた。

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