116話 臨時収入
「は!? おっ、おまっ、イズミッ! 今のは弓が得意とかそういうレベルじゃないだろ! 手練の冒険者には闘気を放つ剣技を使う者がいるらしいが、そういう
興奮気味に話しかけてくるナッシュ。まあいきなりアレを見たらビックリするわな。俺だって今でも自分で見て驚くし。
だが俺が口を開く前に、ナッシュがハッと息を呑んだ。
「っと……悪い。冒険者が
ばつが悪そうにナッシュが頭をかく。どうやらそういう冒険者の流儀があるらしい。もっともらしいことを言って秘密にするつもりだったけど、手間が省けて助かる。
「あー……、まっ、気にしないでください。それよりも一度現場を確認しに行きませんか?」
「あっ、ああ、そうだな」
話を切り替え、俺はナッシュと共に爆心地のようになっている巣穴に近づく。そしてついでに周辺のロックウルフをストレージに収納していった。
もちろん鞄に入れるように見せかけているのだが、正直かなり面倒だ。
いっそ収納魔法が使えるとでも言ってしまおうか――などとチラッと思ったりもしたけれど、これ以上ナッシュを混乱させることもないだろう。
ちなみに一匹のロックウルフをツクモガミに出品してみたところ、3500Gで売れた。ホーンラビットより500G高い。
全部で三十匹ほど倒したので、けっこうな値段になりそうだ。ここしばらくはゴールドの収入がなかったので、この臨時収入はかなり嬉しいね。
そうしてロックウルフの死体とまだ使えそうな矢を回収し、いよいよ巣穴にたどり着いた。
巣穴は下へと降りていくほら穴のような形をしていたが、今や完全に崩落しており入り口は岩と土砂で完全に埋まっている。
まだ少し舞っている砂煙を手で払いながら、大きめの岩をナッシュと二人で取り除いていくと、やがて灰黒色の毛皮に覆われたものが見えてきた。
その先端にあるのは、普通のロックウルフよりも鋭く真っ黒な爪。これがきっとロックウルフルーラーの脚だろう。その脚は俺の太ももよりも太い。
出会い頭にイーグルショットをぶっ放したので全体像はわからなかったが、どうやらかなりの巨体だったようだ。
俺がそれに手を伸ばしたところで、ナッシュから待ったがかかる。
「待て、俺が引っ張り上げよう。イズミは弓を構えててくれ」
気配は感じないし死んでいるとは思うが、たしかに気をつけたほうがいいよな。先輩冒険者の助言に従い、俺は弓を構えた。
それを見たナッシュは両手で脚を掴むと、そのまま力任せに思いっきり引っ張り上げる。すると灰黒色の毛皮の全身が土砂の中から抜け出てきた。
それを地面にドカッと落とすと、ナッシュは観察するようにじいっと見つめた。
「間違いない、さっきのロックウルフルーラーだ。見てのとおり死んでるようだし、ひと安心と言ったところか? はは……」
ナッシュが苦笑を浮かべるのも無理はない。引っ張り上げたロックウルフルーラーは左前脚と両方の後脚が残されているが、頭と右前脚の辺りが存在しない。
削られたかのようにごっそり欠けているのだ。あいかわらず凄まじい威力だよ、イーグルショット。
「牙が残っていればよかったんだがな。それでもギルドで爪は高く売れると思うぞ。だが……なあイズミ。これを売るのはしばらく待ってもらえると助かるんだが……」
申し訳なさそうに眉尻を下げながらナッシュが言った。
ナッシュの説明によると、ロックウルフだけならともかく、支配者のような大物を売ると、噂好きの冒険者たちがいろいろと話を聞きに来るのは間違いないらしい。
そこから今回のドルフを逃した件にまで話が繋がることをナッシュは危惧しているのだ。評判第一の冒険者稼業で同業者相手にこの失態を知られることは、足を引っ張られることになりかねない。
だからほとぼりが冷めるまで待ってほしいとのことだったが、俺としても目立つのは本位ではないし、そもそもギルドではなくツクモガミに出品するつもりだ。そこで、自分で解体して適当に処理しておくので心配しないでほしいと答えた。
するとナッシュはそれはそれは安心したような、母性本能をくすぐる幼い笑顔を見せてくれたよ。腕利き冒険者にしてこの笑顔。そりゃあモテるよなあ。
◇◇◇
そして全ての魔物を回収した帰り道。ドルフは俺が放置した場所にそのまま寝っ転がっていた。どうやらまだ気絶しているらしい。
「ナッシュさん、今回の件を内密に済ますのならドルフはどうするんですか?」
周辺の冒険者には勘付かれなくても、結局ドルフの口から職員には伝わるかもしれない。そうすると、未遂に終わったとしてもナッシュたちの失態が明らかになる。
アレサが死体でもいいからギルドに引き渡せばいいとか言ってたし、もしかして……。
すると俺の顔を見て察したナッシュが肩をすくめる。
「ああ、殺してしまえばてっとり早いんだろうが、お前のお陰でお叱り程度で済む話のためにドルフを殺すのは俺だって気分が悪い。まあ……きっとルーニーがうまくやってくれるだろうさ」
ナッシュはドルフの脚を縛った縄を手に持ち、ずるずると引きずりながら力なく笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます