115話 迎撃戦
パンツ一丁のナッシュが前衛、弓を使う俺が後衛という隊列を組み、その場に踏みとどまりながらロックウルフを迎撃する。
岩山の根本にぽっかりと空いた巣穴からはロックウルフが続々と出てくるが、ヤツらは群れるわりには連携攻撃なんかはやってこないようだ。俺はナッシュに守られながら、一匹一匹確実にロックウルフを仕留めていく。
正面を向いて襲いかかるロックウルフの急所には当てにくい。だが走ってくるなら必ず首を上下させる。そのタイミングを見計らい上手く首元に矢を命中させるのだ。
中にはそれを見て、首を守るように頭を下げて突っ込んでくる個体もいた。そういうヤツには、こちらも低い姿勢から地を這うような矢を撃ち込んでやる。
これらはすべて【弓術】スキルと風を読む【聴覚強化】、距離を測る【空間感知】なんかの相乗効果だろう。我ながらすごい芸当だと思うよ。
それでも数が数だけに、打ち漏らしたり仕留め損なったものもいた。それらはナッシュが見事な剣の腕前で倒していく。本気で振るったナッシュの剣の鋭さは模擬戦とは段違いだ。
そうして気がつけば、俺たちの前方はロックウルフの死体だらけとなった。そういえば、これらもきっとツクモガミに出品できるはずだ。後でナッシュに分け前を要求しないとな――そんなことを考える余裕すら出てきた。
そして最後の一匹を仕留めたところで、ついに巣穴からロックウルフが出てこなくなった。
苦笑を浮かべながらナッシュが俺の方へと振り返る。
「ははっ、俺の出番はほとんどなかったな。イズミ、お前はまったく大したもんだよ」
「いやいや、ナッシュさんが前にいるお陰で、俺も安心して弓が撃てました。まあできればズボンは穿いてほしかったですけどね」
パンツのゴムが緩かったのか、剣を振った後に半ケツになったりしてたからな。それを視界に入れながら、真剣に弓を構えていた俺の心中を察して欲しい。
「うぐっ……。それについてはすまなかったな。まぁその詫びと言ってはなんだが、ロックウルフは俺の倒した分も含めて、お前が全部もらってくれないか?」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、お前がいなければ、ロックウルフ相手にどうなっていたかわからないし、なんとか切り抜けたとしても、ドルフを逃したことで俺もアレサも罰を受けることは免れなかっただろう。手間をかけさせてしまった、本当にすまなかったな」
そう言って、俺のような歳下に頭を下げるナッシュ。まったくこのイケメンは心もイケメンだね。俺は手をぶんぶんと左右に振った。
「いやいや、魔物が貰えるなら俺も得したし、気にしないでいいですって。それじゃちょっと待ってくださいね、死体を回収してく――」
口をつぐんだ俺をナッシュが訝しげに見つめる。
「ん、どうしたイズミ? ……いや、これは……」
俺の【気配感知】に引っかかった何かに、ナッシュも気がついたらしい。
ナッシュは【気配感知】を持ってはいなかったが、それでもわかるくらいの濃厚な存在感。それをロックウルフの巣穴の方から強く感じるのだ。
「……ナッシュさん、なにか心当たりありますか?」
俺が声を落としながら尋ねると、ナッシュがじっと巣穴を見据えて険しい顔で答えた。
「……巣穴を共有しているロックウルフは、外敵から身を守るためにお互い協力関係を築いている。……しかし、まれに一匹の強大なオスが複数のコミュを支配しているケースがあるんだが、まっ、まさか……!」
ナッシュは目を見開くと、じりじりと後ろに下がりながら言葉を続ける。
「マズいぞ、イズミ。ロックウルフの
「いや、もう手遅れだと思います……」
俺の空間感知が今まさに、穴ぐらから這い出ようとしている存在を感じている。今から背中を見せるのは、背後から襲ってくださいと言っているのと同義だろう。
俺は一度息を吐くと、ナッシュとは逆に足を一歩前に進める。
「ナッシュさん、ちょっと下がってください」
「なっ、なにをする気だ、イズミ?」
うろたえるナッシュを横目に、俺は矢筒からカーボンファイバー製の矢を掴み取った。
それと同時に巣穴から、静かな怒りを内に込めたような赤黒い目をした、大型の魔獣がゆらりと顔を出し――
「先手必勝! イーグルショットオオオオオオオッ!!」
問答無用で奥の手をぶっ放した。
ちなみに名前を叫ぶのは、何度か練習した結果、名前を叫んだ方が魔力の
俺の魔力を存分に纏わせた緑の矢は、満を持して登場した濃灰色の魔獣の顔にぶち当たり――
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオンン!!
周囲の岩山を巻き込みながら、まるで爆発したような轟音を響き渡らせた。
砂煙が舞い、土砂がこちらまで降り掛かってきたが、俺は即座に【空間感知】と【気配感知】を全開にして周囲を探る。
ロックウルフルーラーは……あそこか。土砂に埋まった巣穴の中に大型の魔物の存在を感じる。
しかしその存在からは、生きているような気配はまったく感じられなくなっていた。今の一撃で仕留めることができたと思っていいだろう。
「は? え? なに、今の?」
あんぐりと口を開けたナッシュが、俺と爆心地を交互に見ながら呟く。
「言ったでしょ? 弓のほうが得意だって」
俺は少ししびれる手をぷらぷらと振りながらナッシュに答えた。
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