113話 追跡
矢筒を背負った俺は、月夜の中をひたすら走り続けた。走りながら【夜目】【遠目】【聴覚強化】【空間感知】とやれる限りのスキルで周辺を調べあげるが、まったく反応がない。二人はずいぶん遠くまで行ったようだ。
しかし五分ほど走り続けた頃、ようやく俺の耳が気になる音を拾った。そしてそれはすぐに俺の目でも確認できた。
アレは――ドルフだ。ドルフがたまに背後を振り返りながら、こちらに向かって走ってきている。なんで逃げたヤツがこっちに戻ってきてるんだ?
「おーい、止まれ!」
俺はストレージからバットを取り出すと、必死の表情でやってきたドルフの正面に立ちふさがる。
「おっ、お前は! うるせえ! どけっ!」
だがドルフは足を止めることなく、そのままの勢いで俺に向かって腕を振り上げた。
ナッシュから習得した【回避】スキルの影響か、ドルフの一撃を難なく横にかわした俺は、そのままバットでドルフのスネに向かってキツめの一撃を叩き込む。
「ぐわっ!」
バランスを崩したドルフは悲鳴を上げながらもんどりうって地面に転がった。
状況はよくわからんけれど、こういうのはさっさと捕縛するに限るよな。
俺は地面を這いつくばりながらも逃げ出そうとするドルフの頭部に、以前と同じくバットを振り落として気絶させ、すばやく縄で手首と足を締め上げた。ちなみに縄の結び方はキース直伝だ。
そうしてギッチリとドルフを縛り上げた後は、アクアでドルフの顔に大量の水をぶっかけてやる。するとドルフが水を吐き出しながら意識を取り戻した。
「ぶはっ……! げほっげっほ!」
……自分でやっておいてなんだけど、人を気絶させたり起こしたりと、電源のオンとオフを連打しているようで怖くなるなあ。コレぜったい壊れるヤツやん……。
そんなことを思ったりもしたが、ここでナメられるのはよくない。キツーく問い質さないとな。俺はドルフの眼前にしゃがみ込むと、なるべくすごんだ声を出してみる。
「よう……気がついたか。ナッシュがお前を追っていただろう? どうしてナッシュがいないんだ?」
俺の問いかけに、ドルフは卑屈な笑みを浮かべる。
「ひっ、ひひっ、あの色男なら、いまごろ魔物のエサになってるかもな……。へ、へへ、どうせこのまま捕まりゃ俺は犯罪奴隷として送られて死ぬんだ。それなら道連れは多いほうがいい。……ほら、こんなところで俺なんかとおしゃべりしていないで、お前がヤツを助けに行ったらどうだ?」
「どういうことだ?」
「捕まる寸前でロックウルフの巣を発見してな。巣の中に石を投げ込んで群れの連中を叩き起こしてやったのよ。一か八かの賭けだったが、
頭にもう一発バットをお見舞いしてやった。後遺症とか知ったことか。そんなことよりもこいつの言う通りならナッシュが危ない。
俺は平原にドルフを捨て置いたまま、ドルフが走ってきた方角へと駆け出した。
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