112話 爆発した
俺にじっとりと見つめられたアレサは、ごまかすように早口でまくし立てた。
「そ、それでね、物音に気づいて馬車を見ると、走っていくドルフの後ろ姿が見えたのっ。それでさっきナッシュが追いかけていったのよ!」
あたふたするお姉さんもかわいい。そんなお姉さんが脱走発見時にナニをしていたのかと思い浮かべると、最悪に近い気分になるけどな。
それはともかく状況は理解できた。逃げたのがG級冒険者で追っかけたのがC級冒険者。ナッシュに危険はないと思うが……。
「これってドルフを取り逃がすのは、さすがにまずいですよね?」
「そ、そうね……。仮にドルフに逃げられるとなると、私も彼もなんらかの処罰は免れないと思うわ……」
アレサが顔をこわばらせながら呟く。そりゃそうだろうな。冒険者ギルドのメンツを守るために護送してる犯罪者に逃げられてしまうとか、なにやってんだって話だ。
「捕まえて戻ってくるにしては遅いし、もしかしたら見失っているのかも……。ど、どうしようイズミ君」
「ええっ? そ、そうですねえ……」
アレサからすがりつくような目で見つめられ、俺は答えを濁す。なんて答えようかと思ったところで、ツクモガミのモニターにピコンとメッセージが届いた。
『なー、イズミよ』
『えっ、なんだよ?』
さっきまでだんまりだったヤクモが、首をくいっと上げて俺を見つめる。
『罪人を探すのを、手伝ってやったらどうじゃ?』
『……へえ、それってやっぱ神様として人を救いたい……みたいなヤツか?』
俗物っぽい神様だと思っていたけど、そういう気持ちもあったのか。だがヤクモは首を横に振る。
『いんや、そんな大層なことをワシは考えておらん。じゃがなー、このままじゃと、こやつらは仕事のミスで上司からキツい処罰を受けてしまうのじゃろ?』
『そうだろうな。ヘタすりゃアレサさんがクビになったりするかもなあ』
『ワシにも覚えがあるのじゃ。神になりたての頃、このワシでさえ、なにをやっても仕事で失敗続きでのー。同期や先輩の助けを借りて、百年くらいでようやく
ヤクモは懐かしそうに目を細めると、ちらっとアレサの方に視線を向けた。
『それに比べると、こやつらは仕事を始めて十年かそこらじゃろ? そんなのまだまだひよっこではないか。此度の出来事はこやつらの身から出た錆ではあるが、ワシとしてはこの失敗を糧に仕事に
ヤクモがじっと俺の目をみつめた。ヤクモの百年とあの二人の十年はぜんぜん違うとは思うが……。
しかしそれはともかく、バカップルの自業自得とはいえ、二人が処罰されてリア充ざまあみろと思えるほど、俺もヒネくれてはいない。
二人には恩を感じているし、それなりに楽しかった旅のラストがお通夜みたいな雰囲気になるのも嫌だもんな。
『お前に言われるまでもなく、俺は手伝うつもりだったよ』
俺は矢筒を取り出すと、それを背中に背負った。
「それじゃアレサさん、俺も探しに行ってきます」
「……お願いしていいの?」
「はい、ナッシュさんなら心配ないでしょうけど、俺、夜目はきく方なんで役に立てると思いますし」
「わっ、私からも頼む! 私のポーションが脱走に使われたとなれば、きっと私にもお叱りが及ぶと思うのだ! ヘタすれば薬師局の営業取り消しなるかもしれないのだー!」
ルーニーがあわあわと口を動かしながら俺に声をかけた。小刻みに震えてるので一緒におっぱいもぷるぷる揺れている。それを見ているとなんだかやる気も湧いてきた。
『よし、行くぞイズミよ!』
俺の前に、尻尾をピーンと立てたヤクモが勢いよく躍り出る。
「ヤクモ、お前はここに残っててくれ」
「フニャアアアーン!?」
そのままズルッと滑ったヤクモがメッセージをぶん投げてきた。
『なんでじゃなんでじゃ! ワシがお前に願ったというのに、そのワシがこんなところでのんびりとなどしておれんじゃろがい!』
まあヤクモなら役に立たなかろうが、付いてくるとは思っていた。だが珍しく? ヤクモにも役割があるのだ。
『お前にはここに残って、なにかあったら俺にメッセージを送ってほしいんだよ』
見張り番がいなくなったこの場所に危険がないわけではない。だが一報があれば、すぐに駆けつけることもできるだろう。
『むっ、むむ……』
唸るヤクモにとどめの一言を突きつける。
『なあ、ヤクモ。これはお前にしかできないことなんだぞ?』
『むっ……このワシにしかできないことか……。なんとも素晴らしい響き――い、いや、そうじゃな、確かに守りは重要じゃ! そういうことなら仕方ない。こやつらの護衛はワシが引き受けようではないか!』
目を輝かせたヤクモが胸を張って答える。護衛というか連絡をしてくれるだけでいいんだけどなあ。……まあいいか、それじゃあ行こう。
「ヤクモはここに置いていきますんで。それでアレサさん、ナッシュさんはどの辺に向かったんです?」
「えっ、ええ……。あっちの方角よ」
アレサがすっと指をさした。その方角、平原を進んだその先にはなだらかな丘とゴツゴツした岩山が点在しており、あまり遠くまでは見通せそうにはない。身を隠す場所はいくらでもありそうだった。
「わかりました。では行ってきます」
「気をつけてね……」
「頼んだのだ、イズミ君!」
『がんばってくるのじゃぞ!』
俺は頷いてみせると、二人とヤクモに見送られながら丘に向かって走り出した。
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