103話 これ絶対痛いやつ
ナッシュのご希望通り、離れた場所にテントを張った俺はさっそく中へと入った。
好奇心の強そうなルーニーあたりが見学に来るかと思ったが、実際にやって来ることはなかった。俺がテントを立てながらふと眺めた時には、ルーニーは既に焚き火の傍で横になっていたからな。
彼女は体力がないし、馬車の旅でかなり疲れていたのだろう。俺だって馬車の振動で尻がずっと痛いし、早く横になりたい。
入り口のファスナーをきっちりと閉め、鍵代わりに内側からファスナーの引き手を紐で結ぶ。
「ヤクモ、もう人型に戻ってもいいぞ?」
簡易的な鍵だが、一瞬で変化できるヤクモなら十分な時間を稼げるだろう。だがヤクモは狐姿のまま答える。
「んー? 獣になっていた方がこの狭いテントの中で存分に足が伸ばせるからこのままでいいぞい。それに獣姿にも慣れてきたのじゃ。今度、獣姿で野を駆け回ってやろうかのー。それはきっと心地よいのじゃ~」
そう言うとヤクモはごろんと横になった。なんだか前の世界でストレスを溜め込んだ上司が「今日は仕事終わりにサウナへ行くんだよ」と言ってた時と同じような顔をしていたが、あえて言うまい。
俺がなんとも言えない気分でヤクモを見つめていると、ヤクモが首をこちらに向けた。
「それよりもほれ、スキルを見るんじゃろ?」
「ああ、そうだったな」
俺はラーメンを入れたお椀を手渡すとき、ちゃっかりアレサの手に軽く触れていた。冒険者のナッシュのスキルにも興味があるが、まずは女性だし触れる機会が少なそうなアレサから挑戦してみたのだ。
さっそくツクモガミでチェックしてみたところ、身体スキルと精神スキルは無し。だが特殊スキルには記載があった。
【スキルポイント】488
《習得可能な特殊スキル》
【床上手】【MP回復量上昇】
すごく妄想が膨らむスキルがあるが、それは全力でスルーして【MP回復量上昇】をポチッと押す。
《
なるほど、使える魔法がないのでアレサの中ではほとんど死にスキルになっているのか。そういう人の中にもスキルの才能が眠っていることがあるんだな。アレサからすれば残念なことだが、ありがたく使わせてもらうことにしよう。
俺がYESを押してビリッときた衝撃に耐えていると、ヤクモがさらに言葉を続ける。
「なあイズミ、これは大変貴重なスキルじゃし、今後もきっと役に立つ。スキルのレベルアップをオススメするぞい」
「ええ……。レベルアップってアレでしょ? あのめちゃ痛いヤツ」
俺の嫌そうな顔を見て、ヤクモがじっとりとした目を向けた。
「まあ痛かったりするかもしれんが……壁抜けをレベルアップさせたときは大したことなかったじゃろ? スキルをインストールするときの衝撃はスキルの情報量や格なんかに依存するじゃろうから……まあ、ヒールほどは痛くはないと思うぞ」
「ほ、本当か?」
「んー、多分な? だがなイズミよ、そんなビビっとらんで少しくらいは我慢してみせぬか。男じゃろうが」
「ヤクモお前そういうの、俺の世界じゃハラスメントなんだからな」
「はー。お前の世界は本当にいろいろと面倒くさいのう。それよりもほれほれ、早くやってみ?」
「うぐっ……。まぁMPが無くなって気絶したりすると、狩りの最中なら死にかねないしな。そういうことなら頑張るか……」
「おうっ! 頑張るのじゃ! 頑張った後のメシはうまいぞ!」
「もうメシ食った後だっての……」
俺はヤクモにため息混じりに言葉を返すと、習得スキル一覧で点滅している【MP回復量上昇】をタップした。
【MP回復量上昇+1】
《スキルポイント400を使用します。よろしいですか? YES/NO》
ヒール+1は500☆だったっけかな。スキルポイントが高いほど衝撃がキツいようなイメージがあるので、たしかに500☆を体験した俺なら大丈夫だろうが……。
「い、いくぞ……」
俺は覚悟を決めて腹筋に力を入れると、人差し指で押し込むようにYESを押した。
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