100話 袋ラーメン

『フクロラーメン、フクロラーメン……。……ああっ、わかったぞい! アレじゃ、おふくろの味のラーメンじゃな!』


 ピコーン! と耳をおっ立ててヤクモが答える。もちろん不正解だ。


『違うっての。むしろなんでおふくろの味とか知ってるんだよ……まあ見てなって』


 俺は五袋が一セットになっている、北海道の某都市がナンバーワンな袋ラーメンの醤油味を選択。二セット販売で1200Gだ。相変わらずスーパーで買うことを考えると割高だが、他では買えないので仕方ない。


 ポチッと購入すると、ツクモガミのモニター上にシンプルに【袋ラーメン醤油味】と表示された。


 俺はその文字を親指と人差し指でつまんでピッと開く。スマホ操作のピンチアウトというヤツだ。


 すると【袋ラーメン醤油味】は、【袋ラーメン醤油味 麺】【袋ラーメン醤油味 粉末スープ】【袋ラーメン醤油味 特製スパイス】【袋ラーメン醤油味 袋】。この四つに分割された。


 これは旅に出ることが決まってからの準備期間中に、ヤクモにバージョンアップしてもらった機能だ。この機能があればこれまで以上に目立つことなくツクモガミを使えることになるだろう。


 ちなみに報酬は2000G分のカップラーメン。ダンボール箱を開封するバージョンアップと手間が大して変わらなかったらしく、安めの報酬をヤクモから提示された。ぼったくる気がないあたり、まったく仕事に対して真面目なヤツだよ。


 俺は鍋を取り出して湯を沸騰させると、二人分の麺を放り込んだ。ヤクモが鍋の中を覗き込みながらメッセージを届けてくる。


『なんじゃ、袋に入ってるからフクロラーメンなのか。まんまじゃの。しかし容器を見られたくないからフクロラーメンを選んだというのは理解できるのじゃが……。お前の世界には楽に作れてとても美味しいカップラーメンがあるというのに、どうしてこんな手間のかかるフクロラーメンまで普及しておるのじゃ?』


『袋ラーメンが普及した理由? そりゃあやっぱり値段が安いからじゃないか?』


『むむ、安物なのか……。安物は質が落ちるに決まっておる。ラーメンとはいえ、ちょっぴり残念なのじゃ……』


 ヤクモがガッカリしたようにシッポをぺたんと地面に着けた。


『まあまあ、結論を出すのはまだ早いぜ。値段が安いのは確かだが、それ以外にも袋ラーメンには利点があるんだよ。それをこれから見せてやる』


 俺はストレージの中を検索すると、そこから旅支度の合間に作ったホーンラビットの燻製を取り出した。


 それを膝に乗せたまな板の上で薄く切り、鍋の中に入れていく。さらには村の農家で買ったキャベツのざく切りやモヤシも投入だ。


 ちなみにラーメン好きの中にはモヤシ嫌いな人もいるらしいが、俺はモヤシ入りラーメンが好きだ。当然ヤクモにも好きになってもらうぜ。


 最後は生卵を二個取り出し、割って鍋の中に入れた。ちなみに少なくとも村で買った卵は生食厳禁と聞いている。ゆっくりかき混ぜながらふわふわ卵に仕上げた。


 その調理の様子を見ているうちに、いつの間にかヤクモの口からは涎が垂れ、尻尾もパタパタと動かし始めた。


『おおお……! 具だくさんのラーメンなのじゃ!』


『そうだよ。これが袋ラーメンの醍醐味だ。トッピングし放題なんだぜ』


『なるほどっ! これは良いものじゃのう! 謎の肉やちっちゃいエビも好きなんじゃが、実はワシ、カップラーメンの中の卵をもっと食べたいと思っておったのじゃ! イズミ、ふわふわの卵いっぱいで頼む!』


『はいはい、わかったよ』


 仕上げに粉スープと特製スパイスを入れてスープを十分にかき混ぜると、俺はお玉でヤクモの皿にラーメンとふんわりかきたまをたっぷりよそってやる。もちろんモヤシも忘れない。


 たんまりと具を乗せたラーメン皿を地面に置くと、ヤクモがそれに飛びついた。


『いただくのじゃ! ……アツゥイ!』


 カップラーメンより熱いから気を付けろよと言おうと思ったのに……。相変わらずラーメンに目がないヤクモにため息をついていると――


「いい匂いをさせながら何作ってるんだと思ったら、すげえ美味そうな麺料理じゃないか。なあ、イズミ。それを一口食わせてくれないか?」


「あの、イズミ君。私も興味があるのだけれど……」


「イズミ君! 私の特製ポーションと交換でどうだね!? ドルフに飲ませたものより純度の高いものだ! 三日三晩寝なくとも元気に活動できるよ!」


 焚き火から離れたナッシュたちが、興味深げに俺の鍋を覗きこんでいたのだった。



――後書き――


 ついに100話到達! ここまで読んでくださりありがとうございます!


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