99話 あやしい液体と旅ご飯
空が夕暮れに染まる頃、ゆっくりと馬車を停めたナッシュが口を開いた。
「さてと、今夜はこの辺りで野宿にするか。イズミ、今から牢屋の鍵を開けるからな。開けたらすぐに出るんだぞ?」
「わかりました。お願いします」
俺の返事にナッシュは頷くと、取り出した鍵でカチャカチャと錠前を鳴らして解錠した。開かれた扉を俺とヤクモが急いで通ると、ナッシュがすぐさま鍵をかけ直す。
その間、ナッシュの視線はドルフに向けたままだったが、ドルフは相変わらず口を半開きのまま微動だにしない。
「本当に大丈夫なのかな、この人」
ドルフを見つめながら呟いた俺にルーニーが答えた。
「私が作った栄養満点の特製スペシャルポーションを与えているからね。意識ははっきりしなくても死にはしないよ、きっと!」
俺たちが馬車移動しながら昼食代わりのパンを食べていた時、皿に注がれて
「まあ冒険者ギルドの信用を落としてしまった罪を償わせるためにも生きていたほうがいいんだけれど、最悪死んでしまったとしても私の方でしっかり処理するから大丈夫よ。ふふっ、イズミ君は優しいのね?」
微笑を浮かべて俺を見つめるアレサだが、言ってる内容は物騒だ。歳上お姉さんにはもっと胸がトクンとするような台詞を言ってもらいたい。
『そういえば、お前のいた世界では悪人でもいろいろと権利が認められておったようだったの。この世界でそんなのを気にしとると、あっさり足をすくわれるぞい』
などとヤクモにまで言われるが、俺としてもこの世界で人権がどうのと騒ぎ立てるつもりはない。これがこの世界の法なのなら、それに従うまでだ。今はまだ引いてはいるが、そのうち慣れると思う。
「まっ、そういうわけだから放っておきな。んじゃ焚き火の準備をするからイズミも手伝ってくれよな」
ナッシュは自分の魔道鞄から次から次へと薪を取り出すと、それを地面に落とし始めた。
◇◇◇
焚き火の用意を終え、ナッシュがライターのような魔道具を薪の山に突っ込みながら俺に顔を向ける。
「さてと、昼食もそうだったが、夕食も飛び入りのお前の分まで用意していないからな。自分でなんとかしてくれよ?」
「魔道鞄に入れてますから大丈夫です」
俺がただの鞄をポンと叩くと、ナッシュが感心したように眉を上げる。
「へえ、魔道鞄を持ってたのかい?」
「ナッシュ、イズミ君の魔道鞄はすごく容量が大きいのだ!」
地面に座り込みながらルーニーが声を上げた。狩りに同行したとき、ホーンラビットをわんさか入れているのを見て驚いていたもんな。基本的に容量が大きいほど高価なものになるらしい。
「前にちょっとしたツテで手に入れたんです。それじゃメシの準備をするので離れますね」
入手の経緯をボカしながら俺が焚き火から離れると、並んで歩いているヤクモが俺を見上げた。
『昼はクリシアが持たせてくれたパンだけじゃったから、ちょっと物足りなかったのじゃ! 夕食は何を食べさせてくれるのじゃ?』
これまで食事はクリシア任せで、夜食なんかは俺が支払った報酬で食べていたヤクモだが、これからは普段食べる分は俺が提供することになっている。いちおう従魔扱いだし、それくらいはしてやらないとな。
『夕食のメニューか。旅の初日から浮かれるのもよくないだろうから、酒は無しとして……』
『なあ、やっぱりカップラーメンじゃろ? な? ワシ、今日は黄色いのがいい! 前に食べたカレーライスの味と食べ比べるのじゃ!』
立ち止まった俺の周りを、せわしなくクルクル回りながらカップラーメンを推すヤクモ。
『そうだな……。ラーメンはラーメンでも、ここは袋ラーメンにしようか。カップラーメンだと容器が目立つからな』
食事中は他のみんなにも見られるのだ。まだ信用できる相手とは言い切れないし、そろそろ強引に言いくるめるだけじゃなく、目立たない方法も考えていく必要がある。
『フクロラーメン? なんじゃそれ』
まだまだラーメン初心者のヤクモがきょとんとして首を傾げた。
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