98話 お姉さん
ピッシリと制服を着込んだお姉さんが優しく微笑むというのはなかなかと破壊力だ。それに歳下と思われてお姉さんに可愛がられるというのも新鮮だな、悪くないぜ。
というかルーニーも同い年らしいんだけど……この包容力の差はなんだろうな。そんなことを考えながら、ちらりとルーニーの方を見ると、なぜか口唇を尖らせながら声を上げた。
「むうっ、なんだいなんだい。アレサが言い出さなければ私が奢るつもりだったのだ! そもそも通行料なんて2000Rなのに、この程度の金額でいい人ぶるアレサの腹黒さにイズミ君も早く気づくべきだよ!」
どうやら先に奢られたのが気に食わないらしい。まあルーニーから貰えるものはヤバイものばかりだったから、いろいろと断ってたしな。
そんなルーニーをアレサは呆れ顔で見ると、何も言い返さずにギルドの説明を続けることにしたようだ。面倒くさいもんなルーニー。
「ふう、それじゃあギルドタグの説明を続けるわね。ギルドタグは鉄製の板で作られている、個人情報を書き込んだプレートなの。ちなみにC級からはちょっとした魔道具になっていて、専用の器具で情報を自由に書き込めたりできるんだけど……ナッシュ、ちょっと見せてあげてくれる?」
「ああ、いいぜ」
ナッシュは自分の首にかかったチェーンをひっぱり上げる。その先には名刺より一回り小さいくらいの大きさの金属製のプレートがついていた。
「魔力を込めるからな。見てみな」
ナッシュがそう言うとプレートが淡く光り、ナッシュという名前と……ええと、こっちの文字でCだったかな? が浮かび上がった。
「これが俺のギルドタグ。C級冒険者のナッシュだ。よろしくな」
改めて自己紹介をしてキメ顔を作るナッシュ。イケメンである。得意げな顔つきからして、C級というのはそれなりに高い位なんだろうな。
「C級のナッシュはライデルの町でも指折りの実力者なの。今回ギルド職員である私の護衛を依頼されたのも、彼の実力と実績が見込まれたからよ」
「ふふ、まあそうなんだが……それだけじゃないだろ?」
ナッシュは甘くささやくと、そっとアレサの肩を抱く。お、セクハラか?
「もうっ、こんなところでやめてよ……」
などと言いながらもアレサが抵抗することなく頬を染めた。……ああ、二人はそういう……。
俺が二人の関係を察していると、ルーニーがコソコソと俺に耳打ちをした。
「イズミ君が同行してくれて本当に助かったよ。さすがの私もこの二人に挟まれての帰還となると、いろいろと気まずくて大変だったと思うのだ」
そうか? ルーニーなら空気読まなさそうだけど……ってそういやこの人、案外ウブいのだったな。
「……ルーニー、聞こえてるわよ? それに私は公私混同はしませんから! ほら、C級冒険者のナッシュさん、しっかり前を向いて警戒をしてください!」
アレサがナッシュの肩を押して引き離すと、「へーい」と口をへの字にしたナッシュが手綱を構えて前を向く。
「と、とにかく、私からの説明はこれで終わりね。イズミ君、質問はないかしら?」
気まずそうに少し早口でアレサが言った。質問ならもちろんある。
「冒険者ギルドに加入する利点はわかったんですけど、加入したことによる義務みたいなものってあるんですか?」
「あら、聞かれないようなら黙っておこうかしらと思ってたんだけど、しっかり質問してくれるのね。偉いわよ?」
くすりと笑いながらアレサが答える。どうやら俺を軽く試そうとしたらしい。
「まずはお金の話ね。ギルドに加入時に2000Rの入会費を払ってもらうことになるんだけど、それとは別に三ヶ月に一度、会費を払ってもらうわ。これは等級が高くなればなるほど支払額が高くなるの。最下層のG級で2000R、C級なら50000Rね」
町のトップクラスであるC級で一年あたり20万か。結構高い気がするが、それ以上に稼げるということなんだろうな。
「支払いが滞ると1ランク降級。G級で滞納すると除名処分になるわ。滞納理由によっては免除されることもあるけどね」
まあ会費が支払われなければ罰則を受けるのは当然だろう。むしろG級でない限り降級で済むのは優しい気がしないでもない。
「お金の話は以上ね。それともうひとつ義務が課せられるわ。ギルドからの指名依頼は必ず受けてもらうことになるの」
「指名依頼?」
「ええ、ギルドが冒険者に対して依頼することがあるの。今回の私の護衛もそれに当たるんだけど、他には急を要する魔物の討伐のための人員確保や、お偉いさんからの依頼を信頼できる冒険者に任せるためにとかね。これも正当な理由もなしに断ると、降級対象になるから注意してね」
強制権のある依頼か。これも罰則が降級なら、絶対行きたくなければ降級を覚悟すればいいことになる。出世を気にしないのなら、罰則としては緩いかもしれない。
「わかりました。その二点だけですか?」
「そうね、細かい規則ならあるけれど……気をつけないといけないのはこれくらいね。まあライデルの町に着くまで七日ほどかかるわ。その間にいつでも質問を受け付けるから、気軽に聞いてちょうだいね」
「わかりました。いろいろとありがとうございます」
「いいのよ。有望な新人には目一杯サービスしないとね」
アレサはパチッとウインクをすると、御者台に深く背中を預けた。どうやら話はひとまず終わりらしい。ナッシュと雑談をするつもりが、いろいろとためになる話が聞けたな。
俺は牢屋の鉄柵に寄りかかりながら空を見上げ、教えてもらったことを思い返しながら、町に入ってからの予定を考えることにした。
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