97話 冒険者ギルド

 俺が御者台に近づくと、ナッシュがさっそくにこやかに話しかけてきた。


「なあイズミ。お前さんはなかなかの腕っぷしらしいが、やっぱりライデルの町で冒険者ギルドに入って一旗揚げるつもりなのかい?」


「あー。そんな感じですかねえ……」


 ただただゴールドを稼ぎたいだけで、一旗揚げるとかはどうだっていいんだけどな。さすがにそうとは言いにくい。だがそんな煮え切らない答えにナッシュは片眉を上げる。


「お? なんだなんだ? あんなかわいい子を置いて村を出るわりに、はっきりとしないな」


「さっきも言いましたけど、あの子はそういうのじゃないですからね。それと、実は冒険者ギルドってどういうものか、よくわからなくて」


 これは本心である。冒険者ギルドについては調べようとはしたものの、村には詳しく知っている者はいなかったのだ。


「あら、そういうことなら私の出番かしら?」


 ナッシュの隣に座るアレサが口を開く。そういやこの人が冒険者ギルドの職員なんだもんな。この場の誰よりも詳しそうだ。


「よかったら教えてくれると助かります」


「ふふ、もちろんいいわよ。……ええと、そもそも冒険者ギルドは魔物の脅威に対抗するために、とある町に設立されたのが始まりと言われているわ。魔物から町を守り、魔物を狩り、魔物の素材を売って稼ぐ。そういう人々が集まる組合ギルド――その有用性が次第に領地や国でも認められるようになってね、どんどん支店を増やしていったの。そして長い年月を経て、今ではいくつもの国々で展開される巨大組織となったのよ」


 アレサが冒険者ギルドの歴史をすらすらと一息で伝える。まあギルドの成り立ちについてはヤクモからざっくりと聞いていたので知っているんだけどね。


 ちなみに冒険者とは、いつでも何のしがらみも無しにどこへでも冒険に行ける者――つまり定職に就いてない者を指す言葉だったらしい。


 そういう人々が集まって最初のギルドを作ったそうだ。今では冒険者ギルドに所属している者を冒険者と呼んでいるみたいだけど。


 でも知りたいのは歴史じゃないんだよな。もちろんアレサの説明も続いていく。


「そんな冒険者ギルドだけど、今では魔物に関わる仕事だけではなく、いろんな依頼を冒険者に斡旋する業務を行っているわ。例えば今回のような護衛依頼とかもそうね。こうして依頼を受けて、依頼を達成し、どんどん実績点を積み重ねていくの。すると実績点に応じて冒険者ランクが上がり、受けられる依頼の難易度と報酬が高くなっていくのよ」


 つまり後輩の田口に薦められて読んだラノベなんかに出てくる冒険者ギルドと、大筋では変わらないと思ってよさそうだ。そこでアレサはじっとルーニーを見つめてため息を吐いた。


「ちなみに……ルーニーが護衛依頼で雇ったのは、冒険者ランクG級のドルフだったのよ。G級が一番最下層で実績も信用もないランクになるの。その結果、危うく取り返しのつかない事になるところだったのだけど……私が知ったときにはすでに出発していて、頭を抱えたものだったわ……」


 もう一度アレサがため息を吐くと、ルーニーが気まずそうに目をそらしながら答える。


「むぅぅ……。い、いささか軽率だったのは、今となっては反論の余地はないのだが……。高ランクの冒険者を雇うと依頼料が高くなるし、なにより高ランク冒険者は日程が合わなくてね。それでその場にいたドルフを雇ってしまったのだ! 私もいくらG級とはいえ、雇われた冒険者が依頼人を襲うようなことがあるとは思わなくてね」


「はあ……冒険者なんてピンキリなんだから、特に低ランクを信用しちゃダメよ? もう散々お説教したからこれ以上は言わないけど。それでね、イズミ君。もしあなたが冒険者ギルドに入るなら最下層のG級から始めてもらって、そこから信用と実績を積み重ねていくことになるわね」


「あの、そもそも冒険者になると、どういう利点があるんですか?」


「利点か……。そうね、まずはさっきも言ったけど、冒険者ギルドでは仕事を斡旋してもらえるの。冒険者ギルドに行けば依頼がたくさん掲示されてるから、そこで自分のランクにあった依頼を選ぶことができるわ」


 アレサは指を一本立てた。そして続けざまに二本、三本と立てる。


「後は魔物の買い取りもしてもらえるわ。欲しい部位がある場合は解体もやってもらえるわね。解体はギルドでやってもらうのが一番手数料が安く済むと思うわよ。後は……そうそう、ギルドタグね」


「ギルドタグ?」


「冒険者になるとギルドタグが貰えるの。ギルドタグは身分証明証も兼ねてるから、これがあると冒険者ギルドのある町に入るときは、通行料を免除してもらえるのよ。イズミ君は今回ライデルの町に入る際には通行料は必要だけど……友人のルーニーを助けたお礼に、お姉さんが特別におごってあげるわ」


「あっ、どもです」


 貰えるものはもらっておこう。ぺこりと頭を下げた俺にアレサはふふっとやさしく微笑んだ。

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