91話 米の可能性

「わあ……。少し辛いけど、それがクセになっちゃう。すーっと喉に入っていくね」


「ほう、俺はこのコメというのも気に入ったぞ。カレーをかけずとも、これだけで食べられそうだ」


「……、……」


 クリシアとキースがそれぞれ感想を口にし、ラウラはもくもくと食べては一人で頷いている。そしてヤクモはというと、床に置かれたカレー皿に口を突っ込んで口の周りにカレーを塗りたくりながら、ツクモガミのモニターにひたすらメッセージを流していた。


『うまっ、うまっ! ワシはカレー味のカップラーメンを食べていたからカレーについては知っていたつもりじゃった……。じゃが、このカレーライスというのはまったく別の食べ物じゃな! 腹にどんどん溜まるのに、食えば食うほど食べたくなってくるのじゃ! ワシが業務に疲れ果て食欲すら無くなったあの時、カレーがあればもっともっと働――』


 俺はモニターからそっと視線を外した。とりあえずは全員から高評価をもらえたようでなによりだ。手料理というのは手間もかかるし失敗することだってあるだけに、満足してもらえるとこちらの喜びもひとしおだな。


 さてと、それじゃあ俺も食うか。俺はカレーと米を俺の理想の黄金比率6:4でスプーンの中で完成させ、それを一気に頬張った。


 ……うん、美味いっ! カレーは使った肉が別格なので言うまでもないことだが、米の出来の方は心配だった。


 しかし米もべっちゃりとすることなく、ちょうどいい具合に炊けていると思う。ライスクッカーのお陰で思った以上に楽だったし、これからはもう少し米を食べるのもいいかもしれない。


 そう思うと、急に米に合う他の食べ物も食べたくなってきたな……。


 例えば……牛丼、カツ丼、親子丼なんかのドンブリもの、他にも炒飯やチキンライスも食べてみたいし、寿司なんてのはどうなんだろう? あっさりと梅干しだけでいただくのもいいかも。


 なんだか一気に食生活に幅が出てきたように思える。これならもっと早く米に手を出すべきだったかもしれない。米のバリエーションってすごいぜ。


 それから俺は親父さんのようにがっつきながらカレーを喉に流し込み、カレーの辛さと米の食感を楽しんだ。



 しかし以前のバーベキューと同じようにみんなに酒とジュースを提供し、食卓が盛り上がってる最中――ふとある考えが頭をよぎり、俺の手はピタリと止まってしまった。


 俺は今、ツクモガミの縛りはあるけれど、それなりに好きなものを食べていられるし、食べ物以外にもツクモガミで買ってみたい商品はまだいくらでもある。


 しかしそれらを手に入れるには、当然ゴールドが必要だ。とにかくゴールドを入手しないことには、俺が望む暮らしはできない。


 当たり前のことかもしれないが、ある程度生活が安定し、新たな欲求が生まれたことでゴールドの必要性を再認識してしまっていた。


 これから先、ここで魔物を狩って得ることのできるゴールドはどんどん少なくなっていく。


 いつかは買い取り制限が解除されるらしいが、それがいつになるかはわからない。そんな中で、俺は自分の生活をどうしていくべきなのか――


 その答えはすぐに導き出された。いや、最初っから決まっていたんだよな。問題を先送りしていただけで、薄々はわかっていたことだ。


 ……よし、決めた。それならいっそ今言ってしまうのがいい。


「なあ、みんな、聞いてくれるか」


「えっ? どうしたの、イズミ……」


 俺の声が少し硬くなっていたのかもしれない。クリシアが心配そうに俺を見つめ、周囲を見渡せばみんなも手を止めてこちらに顔を向けていた。


 俺は一度ツバを飲み込み、静かに口を開いた。


「俺、もう少ししたら、この村を出ようと思うんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る