72話 早起き

 久々の前世界メシを堪能したその翌日。


 俺は日頃から世話になっているお礼&昨日味わった幸せのおすそ分けとばかりに親父さんに赤ワインを一本、クリシアには以前も購入したのと同じようなギフト用パン詰め合わせをプレゼントした。ふたりとも喜んでくれたので俺も嬉しい。


 ちなみに手渡すときに親父さんからは【棒術】、クリシアからは【料理】のスキルをもらっておいた。


【棒術】は棒があれば戦えるので、弓が壊れたり矢が無くなったときの最後の手段として。【料理】に関しては今は不要だと思っているが、スキルポイントには余裕があるからな。いつか使うかもしれないという軽い気持ちで覚えておくことにした。


 これでもまだスキルポイントは357☆ある。スキルポイントをガンガン使ってもいい時期に入ったかもしれない。


 この日はサジマ爺さんと二人で診療所で働き、営業終了後にはキース宅へと向かう。そこで日程が未定のままだった狩りに同行する日付を相談し、明後日に行うことに決まった。


 なお、翌日の朝にはヤクモからツクモガミのアップデートが終了したとの報告があった。


 俺は一週間かけて作ってくれと言ったというのに、結局ゆっくりと仕事をすることに我慢ができなくなったそうだ。徹夜明けのハイテンションで話しかけてくるヤクモが少々ウザかった。


 とにかくこれで、ストレージへの直接配送、ストレージ内でのダンボール箱の開封も自由に行えることになった。


 正直なところ、狩りでツクモガミを使う機会があるかもしれないし、森に行く前にアップデートが完了したのは、ある意味タイミングが良かったと言えないこともない。まあ調子に乗るだろうから、ヤクモには絶対言わないけど。



 そんなことがあった翌日、キースの狩りに同行する日だ。早朝の鐘(朝六時に鳴ると思われる)よりも早く起きた俺は、いそいそと外出の準備を始める。


 ちなみにいつもは早朝の鐘の音が、俺の目覚まし時計代わりになっている。なぜなら教会に備え付けられている鐘楼しょうろうから、鐘が鳴らされているからだ。すぐ近くで大音量のあの鐘の音を聞かされて、寝ていられるほうがおかしい。


 ヤクモと一緒に客室を出ると、礼拝堂には女神像の前にひざまずきき祈りを捧げている親父さんとクリシアの姿があった。


『おお、父娘共々感心なことじゃのう。イズミも身近なところにワシという神がおるんじゃから、少しはワシを敬ってもいいんじゃぞ?』


 ヤクモからメッセージが届く。まあ俺がヤクモを敬うことはないとは思うが、それを正直に言うと怒り出しそうなのでスルーしておく。


 それにしても二人とも、こんな早い時間帯から礼拝堂でお勤めをしていたんだな。まあ親父さんには教会の鐘楼で鐘を鳴らす役目があるので、いつも早起きなのは知っていたけど。


 声をかけようかと思ったが、熱心に祈っているのを邪魔するのもなんなので、俺も二人の隣で膝をついて祈りを捧げることにした。こうして祈りを捧げるのは久々だ。


 客室に行くには礼拝堂を通らないといけないこともあり、最初の頃はよくお祈りもしていた。しかし、お祈りするたびになんだか視線を感じて背中がぞわぞわと気持ち悪くなるので、最近はあまりやってなかったんだよな。


 今日は幸いなことに視線を感じることもなく、お祈りを済ませることができた。そして目を開けると、ちょうど父娘もお祈りが終わったようだ。


「おはよう、親父さん、クリシア。昨日も言ったけど、これから森に行ってくるから。夕食までには戻ってくるよ」


「おう、頑張ってこい」


「気をつけてね? 朝食は食べなくても平気?」


「ああ、腹はぜんぜん減ってないから大丈夫」


 昨日も狩り前日の景気づけとばかりに、ヤクモと二人で夜食を食っていたからな……。そんな俺にクリシアがジトっとした目を向ける。


「……また夜に食べてたんでしょ。あんまり夜中に食べ過ぎると太っちゃうよ?」


 どうやらお見通しらしい。だが――


「そういうクリシアだって、俺があげたパンのパンくずが口元についてるぞ? それで朝食まで腹に入るのか?」


「えっ、ウソっ!」


 クリシアが慌てて口を手で拭う。


「ウソだよ。それじゃー行ってきまーす」


「バカッ! いってらっしゃいイズミ!」


 ぷんすか怒りながらも見送ってくれるクリシアの声を背中で聞きながら、俺は礼拝堂を後にした。

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