70話 賞味期限

 俺はダンボール箱を開いて、中身を確認してみることにした。けれど――中のカップ焼きそばの見た目は普通だし、特に変わった様子もないんだよなあ。


 首を傾げながらカップ焼きそばの容器を振って音を聞いたり、上下にひっくり返したり色々していると、ふと容器に印刷されている賞味期限が目に入った。もしかするとコレか?


「……やっぱり。はぁ~」


 思わずため息が漏れる。賞味期限は俺が転移した日よりも一月以上前の日付だった。どうやら俺は賞味期限切れ商品を掴まされたらしい。まあ少し賞味期限が過ぎようが、俺は躊躇ちゅうちょなく食えるのだが……あれ? そういえば――


「なあ、ヤクモ。俺がいま買ったヤツ、賞味期限が切れているみたいでスキルポイントが貰えなかったんだけどさ、ツクモガミに出品されてる商品って、向こうで出品されていた物なんだよな? こっちの世界にいても、向こうの世界と同じように時間は流れてるのか?」


 出来あがったカップラーメンをすすっていたヤクモが、こっちにちらっと目を向けながら答える。


「ずるずるっ……それはワシにもわからんっ! その辺は次元の神とか因果の神の仕事じゃからな。それにな、そもそもお前のおった世界にツクモガミとかいうフリマサイトが新たにできたわけではなく、次元と因果を捻じ曲げて、ツクモガミに出品しているように見せているだけなのじゃ」


「それじゃあ、いろんなフリマサイトから適当にリストアップされた物を、ツクモガミを通して俺が見ているってことか?」


「ずるずるずるっ……! そんな感じじゃな。そうして次元と因果を捻じ曲げた結果なのじゃから、二つの世界間の時間の流れなんてものは曖昧で適当なものじゃと思うぞい。神の御業とはそういうモノなのである。気にするだけ無駄じゃな。ごきゅっごきゅっごきゅっ……ぷはーっ!」


 ヤクモはカップラーメンの汁を飲み干すと、さらに説明を続ける。というか食い終わるの早えよ。


「それからな、その賞味期限とやらが切れておっても、なにも問題はないのじゃ。しっかりとそのむねが記載されておればな。……じゃがなー、虚偽の記載や騙そうとする意思が存在していると、出品物とその情報にズレが発生する。これがやっかいでの、そうなると出品物をこちらに顕現けんげんさせるワシの物品の神としての神力を余分に使うことになるのじゃ。そういった理由でペナルティとしてスキルポイントは与えられんようになっとる」


 試しにツクモガミで購入履歴から、さっきのカップ焼きそばの商品説明欄を調べてみる。たしかに実際の賞味期限と商品説明欄に書かれた賞味期限はまったく違っていた。具体的に言うと一年サバを読んでいる。


 それにしてもヤクモって、なんだかSEとかオペレーターとして労働をしているイメージだったんだが、しっかりと神力を使って仕事してたんだな……。


「……ところでイズミ、それは何なのじゃ? カップラーメンにしてはなんだか平べったいのう?」


「ん? ああ、これはカップラーメンじゃなくて、カップ焼きそばだ。カップラーメンと似たようなもんだが、こっちは麺を茹でた後は湯を捨てて、ソースをかき混ぜて食うんだよ」


 そんな俺の説明にヤクモは眉をひそめる。


「イズミ、何を言っておるのじゃ? カップラーメンと同じく茹でた食べ物であるのなら、焼いてはおらぬであろう。それなら焼きそばではなく、茹でそばじゃろう?」


「なぜかは知らんが、焼きそばってことになってるんだよ」


「ふーん。お前のおった世界は本当に変わっておるのう……」


 ヤクモはそう呟くと、もう興味を無くしたのか自分のダンボール箱をごそごそと漁り始めた。もしかしてまだ食べるつもりなのかコイツ。


 しかしヤクモの食べっぷりを見ていたら、夕食を食べたばかりの俺も我慢できなくなってきた。よし、俺も食おう。賞味期限は切れているみたいだが、多分大丈夫だろ。

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