65話 レベルアップ

「おうっ、イズミ! 昨日はごちそうさん!」


 礼拝堂横の住居に入るなり、俺たちは上機嫌の親父さんに出迎えられた。相変わらず親父さんはキュアがなくても翌日に酒を残さないようだ。


 俺が挨拶を返しながら椅子に座りしばらく待つと、洗濯の準備を終えたクリシアもやってきた。全員揃ったところで朝食をいただく。


 今朝のメニューは小さめの丸いパン二つと、少し具の入ったスープの二品。普段なら少し物足りないと思うところだが、昨日は食べ過ぎたせいか、ちょうどいい感じだ。クリシアの気配りなのかもしれない。


 食べながら軽くツクモガミをチェックする。昨日の収入と大量出費の結果、俺の所持金は101050G、スキルポイントは318☆となっていた。


 まだヤクモのカップラーメンも買っていないし、俺も自分用に食べたい物も買っていないので、所持金が10万を割ることになるのは確定だ。


 それでもまだ金には余裕がある。今は金のことよりも318☆というスキルポイントの使い道を考えたほうがよさそうだ。


 今まではスキルポイントに余裕がないので気にしてこなかったけど、スキルのレベルアップなんて概念もあるんだよな。この際ヤクモにその辺の話を詳しく聞いてみるのもいいかもしれない。



 ◇◇◇



 朝食を終えた後は診療所に出勤だ。俺は教会から一本通った坂道を下りながら、ヤクモにスキルについて質問した。


「なあ、【壁抜け】と【ヒール】だけスキルのレベルアップが可能だったろ? あれってどういう仕組みになってるんだ?」


 銀狐姿のヤクモが俺を見上げる。ちなみに見通しのいいこの道の付近には村人の姿はない。


「スキルのレベルアップはモノによっては大量のスキルポイントを使う。じゃからワシがロックをかけとるんよ」


「ロック?」


「うんむ。ワシが承認したスキルだけがレベルアップ可能なのじゃ。仮にじゃ、ロックがなかったとして、お前がしょうもないスキルのレベルを上げたりしとったら、野盗に捕まった時点でお前も詰んどったかもしれんじゃろ?」


「そういうことか……。まあたしかに俺なら適当にポチポチやりかねん」


「じゃろ?」


 ヤクモが狐顔でもわかるくらい、ゲンナリとした顔をする。


 そういえばヤクモが姿を現すまでは、ツクモガミのモニターがビープ音を鳴らしたりチカチカと点滅したりと、いろいろと俺を誘導するのに必死だったよな。コイツが俺をモニタリングしながら頭を抱えていた光景が目に浮かぶようだ。


「ちなみにスキルは通常のものが熟練級、+1が達人級、+2が伝説級というクラス分けになっとる。まあ簡単な目安にしかならんけどな」


 そうだろうなあ。【ヒール】ならともかく、【壁抜け】の達人とか意味わからんし。


 スキルの話題になったことだし、俺は一度ツクモガミで習得スキルを確認してみることにした。


習得スキル一覧

《身体技能》

【弓術】【イーグルショット】


《精神技能》

【ヒール+1】【キュア】


《特殊技能》

【縄抜け】【夜目】【壁抜け+1】【粘り腰】【指圧】【遠目】【聴覚感知】


 今はこんな感じのようだ。


 とりあえず今後は診療所でスキル探しと平行して、森で魔物を狩ることになるだろう。


 昨日は勢い余って単独で森に突入したが、しばらくはキースに森での狩りを教えてもらえるように頼んである。弓術のスキルはあっても狩りの経験がない俺にとっては必要な知識だ。


 キースが即座に快諾してくれたのでありがたかった。情けは人のためならずってやつだな。



 ◇◇◇



「おお、イズミ。おはよう」


 坂道を下りて村の通りを歩いていると、中年男性に話しかけられた。たしか診療所に来たことあるな……そうそう【鼻歌】スキル持ちのマセルさんだ。


 この村にやってきて十日あまり。外で声をかけられるのは初めてのことなのでちょっとうれしい。


「おはようございます。マセルさん」


「今日もまた午後から行かせてもらうよ。ああ、それと、キースたちが大きな荷車を持って、診療所で待っとったよ」


「え、マジですか。ありがとうございます。急いで行ってきます」


 俺はマセルさんに手早くお礼を言うと、駆け足で診療所へと向かう、そこには何やら大きな荷車を停めたキースとラウラがいた。


「おはようイズミ」

「おはようございます……」


「ああ、おはよう。もしかしてこれって……?」


「うむ、昨日のホーンラビットリーダーだ」


「もう解体が終わったの? 早くない?」


「魔物肉は獣に比べて腐りにくく、それほど早く解体する必要もないのだがな。俺もこんな大物の解体は初めてなので、ついつい熱中してしまったのだ。まあ今日は狩りは休んで休養に当てるつもりなので問題ない」


「そうか、それじゃあ貰っていくよ。ありがとな」


 俺は木箱の中に積まれていた大量の肉をストレージに収納する。


「ふむ……。収納魔法は良いものだな。それは俺でも覚えられるものなのだろうか?」


「さあ、どうだろ……? 俺はなんか知らんけど、最初からできたし」


 そうとしか言えんよな。そんな俺の言葉にキースはガックリと肩を落とす。


「そうか……。お前は本当によくわからないやつだ。それじゃあ俺は帰って休む。ラウラを頼むぞ」


「ああ、ラウラは施術か。昨日こなかったしな。ってか、今日は見張ってなくていいのか、?」


「ぐっ……! ラウラにうるさいからもう付き添わないでいいと言われたのだ。くれぐれも、頼むからな……!」


 キースは俺の肩にバシンと手を置き、ぐっと力をこめる。もちろん何もする気はないので安心してほしい。


 ……ああ、キースに触れられてちょうどいい機会だから、解体のスキルを習得しておこうかな。これから魔物を狩ることにもなるだろうし、毎回キースに解体作業は頼めない。


「それじゃあ俺は帰るからな! ラウラは任せたぞ!」


 途中なんども振り返りながら荷車を引いてキースは帰っていった。それを見送りながら、さくっと【解体】を習得。必要スキルポイントは8☆だった。


「よし、それじゃ中に入るか」


「うん」


 ラウラはコクリと頷く。相変わらず普段は口数が少なくおとなしい。その分キースがわりとやかましいのでバランスは取れているのかもしれない。


 そんなどうでもいいことを考えながら、俺は診療所の扉を開けた。

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